千秋楽〜ジ・エンドオブプレイス〜

「水田さん! 水田さん!」


 大きな波紋が静かに拡がってゆく。


「水田さん! 水田さん!」


 返事はもちろんない。

 俺は川に飛び込むと、彼女が落ちた場所を目指すが、思いの外ながれは早く、中々そこまで辿り着くことができない。


 何やってんだ! 俺は!

 勝負に夢中になって!

 彼女を……水田クミコを失ったら、相撲に勝ってもなんの意味もないじゃないか……‼︎


「水田さん! 水田さん!」


 川は何事もなかったようにたゆたい、彼女の痕跡はどこにも見出すことはできない。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」


 泣きながら吠えた俺の頭に、閃いたものがあった。


「20人の力士たちよ!」

「ごわす⁉︎」(×20)

「頼む! 力を貸してくれ! お前たちの主人を! 俺の愛する水田クミコを! 助けたいんだ!」

「…………」

「俺は彼女を愛している! 彼女の中のお前たちも愛している! 俺は全てを受け入れる! 共に生きよう! けどその為には、まず彼女が、水田クミコが生きてなくちゃダメなんだ!」

「…………」

「お願いだ! 力士たちよ、力を……貸してくれ‼︎」


 力士たちが互いに顔を見合わせて頷いた。


「どすこい!」(×20)


 掛け声一発、20人が一斉に川に飛び込むと、その体積と体重のインパクトで水は津波のように土手を乗り越え、川は一瞬にして干上がった。

 鯉やフナがびちびちと跳ねるその堆積泥の川底に、俺は彼女を、水田クミコを見つけた。


「水田さん!」


 すぐに駆け寄って彼女を助け起こす。

 彼女は激しく咳きこんで大量の水を吐いた。


「水田さん! 大丈夫? 水田さん!」

「……ね」

「えっ、なに?」

「……一ヶ月前と逆、ね」

 彼女は力なく笑うと、また咳きこんだ。

「良かった……水田さん……良かった……」

 涙が止まらない。

「好きだ。水田さん。もし君が、死んでたら……僕は……」

 ひた、と僕の唇に彼女の人差し指が当たる。


「クミコ、って呼んで」

「……クミコ」


 僕は彼女を見つめた。

 彼女の瞳には、彼女を見つめる僕が写っていた。

 そして彼女が目を閉じた。

 僕は彼女の唇に、優しく僕の唇を重ねた。


 どすこい! どすこい!




*** FIN ***

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彼女から出る20人の力士のスタンドを倒さないとキスできない 木船田ヒロマル @hiromaru712

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