キララせんせいとサキコせんせい

小林巡査

第1話

キララせんせいが、そうまくんのパンツを下ろそうとすると、そうまくんはこれを拒みました。

「なんでチンチンを石にするの?」

 そうまくんは怯えた表情で、目にうっすらと涙さえ浮かべています。

「みんな言ってる。キララせんせいはメデューサだって」

 キララせんせいは、なんのことかわかりませんでしたが、いつもの一過性のブームだと思い、気にもかけません。

「ほら、早く脱がないと漏れちゃうよ」

「石にしないで!」

 あまりの真剣さにキララせんせいは戸惑いました。

「早くしないと……」

 そうまくんのパンツがじわっと濡れたかと思うと、腿に一筋の透明な水が流れました。

「あーあ」

 そうまくんは、とうとう、うわあと泣き出してしまいました。

 その隙にキララせんせいがパンツを下ろすと、おしっこが勢いよく飛び散りました。まるで高い水圧で暴れるホースのようです。尋常でない泣き声、飛び散るおしっこ。密室内は阿鼻叫喚でした。


 トイレの中から泣き声が漏れ、お遊戯部屋にいた男の子達は、一斉に積み木の手を止めました。

「そうまくんも石にされちゃったね」

「石にされたら死んじゃうんだよ」

「僧侶に治してもらわなきゃ」

「僧侶はどこにいる?」

「ぼく、僧侶を呼んでくる!」

 正義感の強いノブくんが立ち上がり、職員室に走っていきました。

「サキコせんせい!」

 職員たちが一斉にノブくんに目をやります。

「そうまくんが石にされちゃった」

 サキコせんせいは、なんのことかわかりませんでしたが、いつもの一過性のブームだと思い、気にもかけません。

「そうまくんがどうしたの?」

「メデューサに石にされちゃったの」

 ノブくんの異様な慌てぶりに園長先生は言いました。

「サキコせんせい、ちょっと見に行ってあげて」


 ノブくんに案内されるままついていくと、トイレの方から尋常ではない泣き声が漏れてきました。

 サキコせんせいは慌ててノブくんを追い越してトイレに駆けつけます。ドアを開けると、いたるところにおしっこが飛び散り、キララせんせいは髪までズブ濡れになっていました。

 サキコせんせいの背後から男の子たちがけしかけます。

「そうまくん、つれてきたよ。僧侶だよ!」

 そうまくんは、サキコせんせいに目をやると、一心不乱に抱きつきました。

 すると時間が止まったのです。

 そうまくんは、ピタッと泣き止みました。そしてゆっくりと離れました。

 男の子たちは、そうまくんのチンチンを見て口々につぶやきました。

「治った」

「やっぱり僧侶だ」

「僧侶……」

 二人のせんせいは呆然として、思わず顔を見合わせます。

 キララせんせいは、優越感を抱きました。

 サキコせんせいは、劣等感を抱きました。


 その夜、キララせんせいは、常連客とシティホテルのベッドの上にいました。

「君は本当にすごいよ。今日バイアグラ飲んでないからね」

「わたし、園児たちにメデューサって呼ばれてるの」


 一方、サキコせんせいは結婚したばかりの夫とベッドの上にいました。

「ごめん、最近仕事キツくてさ。疲れてるかも」

「わたし、園児たちに僧侶って呼ばれてるの」

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キララせんせいとサキコせんせい 小林巡査 @junsakobayashi

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