第50話 白い髪の女の子、攻略を完了する!

「すみませーん! えっと、リンさんはご在宅でしょうか~?」


 一樹とヒナにほぼ強引に送り出された俺は、せっかく逃げ出した赤名家に再び戻って来た。

 いつもは迎えられたり連れて行かれたりしていただけに、どう入ればいいのか分からずにいる。


 赤名家の屋敷をまともに眺めたことは無かったが、純和風のお屋敷だったことに今になってようやく気付いた。家よりもみこさんやリンばかりを見ていたようだ。


 しばらく何も出来ずに待っていると、頑丈そうな木の扉が重苦しそうな音を出して開いた。

 そこから出て来たのはもちろん、みこさんだ。


「いらっしゃいませ、イツキ様。ふふっ、幹さんとお呼びした方がいいでしょうか?」

「ど、どっちでも大丈夫です」

「では、こちらへどうぞ」

「は、はい」


 相変わらずのご丁寧さを出しながら、姿勢のいいみこさんが音もたてずに歩き出した。

 よく見ると和風な廊下の壁際には、一定間隔で黒服を来た綺麗なお姉さんが立っている。


 一見すると無表情のように見えるが、数人からはクスクス笑いのような音が漏れ聞こえて来た。

 人に笑われてしまう程のことを俺はしていただろうか。


「あ、あの~、一体どこまで歩くんですか?」

「幹さん。敬語は無用です。遠慮なく、みこ とお呼びくださいませ」

「みこ……結構歩いている気がするんだけど、俺はどこに向かっているのか聞いても?」

「行けば分かりますよ。その部屋に行けば、きっと分かります。楽しみにして頂ければ、きっと喜びます」


 喜ぶ――というのは、もちろんあの子のことだ。

 そういえば、彼女に何かをしたら解決するという話だった。

 

 それをはぐらかしたままで学校に戻ってしまったわけだが、その続きということでいいのだろうか。


「えっ、ここ……?」


 しばらくみこさんの後について行くと、特に何の装飾も無い真っ白な壁の前に着いた。

 まるで蔵のように狭い扉がぽつんと見えているだけで、他には何も見えない。


「どうぞ、幹さん」

「は、はぁ」


 どうやら黒服お姉さんも、みこさんもついて来てくれないらしい。

 恐る恐る開けられた扉の中に入ると、すぐに扉を閉じられてしまった。


 何だかよく分からないが、何かの罪でも裁かれそうな雰囲気がある。

 部屋の中へ進もうとしたものの、真っ暗な空間でどこをどう進めばいいのかさっぱりだ。


 するとどこからともなく、リンの声が響く。

 どこからかマイクで喋っているかのように、エコーがかかっていて半端ない。


「リーダー! そのまま真っすぐ歩いて来い! 心配しなくても、つまずくものなんてない」


 この口調はLOR時代の白ネコそのものだ。

 もしやVRを着けていなくても、この空間そのものがゲームの中に突入しているのだろうか。


 ――かと思ったが、エフェクトも何も見えないので単純に気分の問題のようだ。


「分かった。真っすぐだな?」


 そういうことならと、俺もリンに従って手探り状態で前に進む。

 つまずくものどころか、狭い通路になっているのか両側には壁があり、左右に動くスペースが感じられない。


 そうすると、この奥にVRルームがあるのか。

 そう思っていたら、拍子抜けとも言うべき光景が俺を待ち受けていた。


 四角い空間の中にリンが一人いて、ふわもこなソファに深く腰掛けている。

 VRとかは一切見えず、単なる気休めの部屋にしか見えない。


「遅かったな、リーダー。私を待たせるなんて、相変わらずだ」

「リン……いや、うん。何も言わないけど」

「なりきれないなんて、おかしくないですか? いつからそんなに人間として面白味の無い奴に成り下がってしまったんですか? そんなの、リンの理想のイツキさまじゃないです!!」

「――そう言われても」


 散々な言われようだ。

 しかしバーチャルとリアルで同一な性格をさせてる奴なんて、あんまりいない。


 それはともかくとして、こんな狭い部屋に俺を導くということは何かを決めたということみたいだ。


「小野瀬幹くん。いい加減、認めてもらっていいですか? 私、初日から攻め続けてその時すでに、攻略し終えてたんですよ? それを何ですか! 妹とかにも目を配るようになるとか、あんまりじゃないですか!」


 義妹の一樹とか、他の女子との行動歴も全てお見通しか。

 この子の言うとおり、初日に出会った白い髪の女の子に出会ったその時から、すでに惚れていた。


 認めたくないものだ。

 過去の引退ゲームの中の子が現実に出て来た時点で、ずっと気持ちが落ち着かなくなっていたなんて。


「いやっ、うん……そうです。白く輝く女の子に出会ったあの日から、気になってました。はい」

「その言葉を表すと?」

「気になっていた」

「そうじゃないです!! リンのこと、バカにしてます? いい加減にしないと拘束しますよ?」


 拘束されるのは勘弁して欲しい。

 狭い部屋のおかげか、拘束具らしきものは見当たらないが。


「あ~と、えー……白ネコのリンがずっと好きだった。好きってことが再開して確定になってた! これでどうだ!」

「正解です! あらゆる手段で攻略してやろうと思っていたので、上手く行ったようで何よりです」


 正解も不正解も無いと思われるが、正解ならいいのか。

 しかし問題は彼女の答えの方だ。これをはっきりさせないと来た意味が無い。


「そういうリンはどうなんだ? リーダーとしてじゃなくて、リアルへたれな俺のことは?」

「すでに攻略出来てるって言いましたよ。赤名家の姉妹の谷間に挟まれても、まだ足りないんですか? それとも黒服を集めてハーレム空間を作るおつもりが?」

「つまり、俺のことが……?」

「はい、好きです。攻略したいって時点で、好きに決まっているじゃないですか! リーダーの時は頼りになっていたのに、どうしてそこまで……本当にダメダメですね」


 この期に及んで、リンの言葉に思わずカチンときた。

 その勢いでソファに座っているリンに、押し迫ってしまったじゃないか。


「……いや、その……」

「してくれないんですか? 目の前まで迫って来たのに、真面目にへたれな男の子なんですね」

「す、するよ! してやるっっ!!」


 ゾクゾクとしたリンの瞳と声を間近に感じながら、彼女の唇に近付いた。

 まるで吸い込まれるようにして、リンにキスをした。


 だが――


「――30点ですね。ハーレムリーダーだった時のスキルも落ちたものです。次はもっと優しく近づくように心がけてくださいね。そうじゃないと、VR拘束具でどうにかしちゃいますから!」

「ええっ!? そ、そんな……」

「でも、好きですよ、幹くん。今後ともよろしくお願いしますね!」

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攻略組だった彼女が、あの手この手で俺を攻略【惚れさせ】に来ている件 遥 かずら @hkz7

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