第49話 最初から包囲されていた件
一樹は一切ゲームを触ったことも無く、触らせたことも無い。
しかしヒナが保健室にいただけで、こんなにも強い口調で迫って来れるものだろうか。
「お前もやっていた……とか?」
「お前じゃなくて、イツキでしょ? ねえ、偽イツキくん……?」
「――へ? 何を言って……」
ヒナとはパートナーだったと言っていたが、まさか。
「ハーレムを作り出すまでのことは知らないけど、ミキちゃんがイツキってキャラで動いていた時のことは全部知ってるんだよ」
「な、何故……」
「自分の名前を使われていたら、見つけ出すのは簡単だったっていうか。もちろん、私は似た名前で動いていたんだけど、その時助けてくれたのが黒ウサギのヒナなの! 同じ学校の子だったのは偶然だったけどね」
(おいおい、マジなのか)
そんなはずは無いと思っていたのに、隣の部屋の一樹が密かに同じLORをやっていたとは。
アカウント情報まではさすがにバレていないと思うが、同じ鯖にいれば名前でバレる。
それだけに全く警戒をしていなかった。
しかもヒナとパートナーとか、彼女にはそのことを知られながら近づかれていたことになる。
思わずヒナを見るが、うんうんと頷いているだけだ。
「――ということは、つまり?」
「朝から会いに行っていたのって、リンでしょ?」
正確には拉致られていた、だけど。
「多分……そうかもしれない。何でリンのことまで?」
「私はミキちゃんのハーレム空間に入ってないけど、全部見てたから知ってるよ。ヒナからもしょっちゅう聞いていたしね。好きなんだよね、リンのことが」
「そんなんじゃないし、そもそも学校で出会うまで、存在そのものに気付いてもいなかったぞ。それなのに好きとか、それは違うだろ」
ゲームには無縁だと思っていたはずの義妹一樹が、まさかのカミングアウト。
まさかイツキとして動いていた俺のすぐ近くで、同じ冒険をしていたなんて。
ヒナのパートナーと聞いていた時は、てっきり格闘か何かの話だとばかり思っていたのに。
一体どこまで聞いているのか。
「違わないと思うけど……。それに、ミキちゃんって私に全然興味が無いよね。義理の関係だから色々出来るしそれが可能なのに、ちっともその気が起きないんだもん。そしたら案の定だったなぁって」
義妹の一樹にあんなことやそんなこととか、出来るはずも無いが。
もしかして、ミズハやユウキのこともお見通しなのでは。
「案の定……なんだよ、俺をどうするつもりでそんなことを?」
せっかく学校に戻って来れたのに、また行けとか鬼畜か。
「泣かせたままほったらかしは良くないよ? サボり認定しておくから、行っといでよ! 私とかヒナはともかく、他の子じゃ敵わなかったわけだし。だから、ミキちゃんは今すぐ行く!! リーダーなら行くべきだよ!」
「うんうん、ヒナもそう思う! リーダーに一番慕ってたのは、白いあの子なわけで。一番気にかけていつも傍に置いてたでしょ? それなら認めちゃったほうが楽だよ! ね?」
保健室で女子が二人ほど、俺に迫っている。
もとい、攻めて来ているのはどういう構図なんだろうか。
しかもここに来て、一樹がLORプレイヤーだったとか、それは密かにショックなんだが。
引き籠っていた俺は、隣の部屋の状況に気付けるはずも無かった。
まさか同じゲームにログインとか、洒落になってない。
「委員長公認でサボっていいのか? これから午後の授業だけど……」
「つべこべ言わずに、行け!! それとも他の子たちの方に気があるの? そっちの方が嫌なんだけど」
「嫌って……一樹に関係……いや、あるのか」
「ヒナも幹リーダーのことを応援するからねー! さっさと行けー!! ボケー!」
さりげなく口が悪い。
ヒナは俺のことは何とも思っていなかったのか。
思われていてもどうというわけでも無いが、まして一樹と仲が良すぎるし。
「わ、分かったよ。要するに、リンの所に行けばいいんだろ? リーダーとしてけじめを――」
「うんうんうん、けじめは大切だよー! 特にリアルではヘタレな幹はね!」
「……私では出来なかったけど、リンなら出来るし出来かけてるから、後はミキちゃんが解決してあげるだけだよ。あ、ちなみに今日は早退にしとくね」
「へ? あれ、朝は……」
「来なかったから、そうしといたよ。じゃあね、ミキちゃん。また家でね! どうしようもないお兄ちゃんだけど、見守っててあげるから!」
馬鹿にされているのやら応援されているのか不明だが、二人の女子が見守る中、保健室から追い出されてしまった。
そうなると向かう場所はあそこしか残されていない。
何で拘束されたあの場所に、好き好んで戻ることになるんだろうか。
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