第6話 epilogue
マンションから出てきた俺を、黒の3つ揃いを着た品の良い、痩身の老人が迎えた。白髪を後ろに撫で付け、ステッキを手にしているが、背筋はピンと伸びている。
土御門の爺さんだった。わざわざ、出張って来たらしい。
背後に黒いリムジンが止まっており、2人の屈強な男が控えている。護衛でもあり、弟子でもある男たちだ。
その後ろのガードレールには、瑞樹が腰掛けていた。心配して待っていたのだろう。
「どうだったかね? その顔では、万事上手くいったわけではなさそうだが」
と、聞いてきた。
「ここの後始末もお願いしますよ。2人です」
俺は苦い顔をして、爺さんに言った。
「任せておきたまえ」
爺さんが振り向くと、2人の護衛がマンションへと消えた。
「交換条件の例の件だが……。まあ、その顔を見たら、言う気が失せたよ。今度、改めて、伺うよ」
またな――と土御門の爺さんは言って、皺だらけの顔に微笑を浮かべ、リムジンに乗り込んだ。すぐにリムジンは動き出し、視界から消えた。
俺が車を見送っていると、瑞樹がそっと、近づいてきた。俺が見やると、
「しーちゃん」
と、俺の腕に、自分の腕を絡ませてきた。それから、俺を見上げ、
「あたし、お腹空いた!」
そう言った。俺のことを、こいつなりに気遣ってくれているのだ。
まったく――。
「奢ってやるよ。何がいい?」
俺の問いに瑞樹は、
「あたし、ラーメンがいい!」
「ラーメン?」
「うん。この辺に、おいしいお店があるんだって」
瑞樹が人懐っこい微笑で言った。俺もようやく、微笑を浮かべる。
「じゃあ、行くか」
「うん!」
俺と瑞樹は、ラーメン屋を探すために歩き出した。
CASE 1 ――鬼―― 完
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