第6話 epilogue



 マンションから出てきた俺を、黒の3つ揃いを着た品の良い、痩身の老人が迎えた。白髪を後ろに撫で付け、ステッキを手にしているが、背筋はピンと伸びている。御年おんとし80を超えているはずだが、達者なものだ。

 土御門の爺さんだった。わざわざ、出張って来たらしい。

 背後に黒いリムジンが止まっており、2人の屈強な男が控えている。護衛でもあり、弟子でもある男たちだ。

 その後ろのガードレールには、瑞樹が腰掛けていた。心配して待っていたのだろう。


「どうだったかね? その顔では、万事上手くいったわけではなさそうだが」


と、聞いてきた。


「ここの後始末もお願いしますよ。2人です」


 俺は苦い顔をして、爺さんに言った。


「任せておきたまえ」


 爺さんが振り向くと、2人の護衛がマンションへと消えた。


「交換条件の例の件だが……。まあ、その顔を見たら、言う気が失せたよ。今度、改めて、伺うよ」


 またな――と土御門の爺さんは言って、皺だらけの顔に微笑を浮かべ、リムジンに乗り込んだ。すぐにリムジンは動き出し、視界から消えた。

 俺が車を見送っていると、瑞樹がそっと、近づいてきた。俺が見やると、


「しーちゃん」


と、俺の腕に、自分の腕を絡ませてきた。それから、俺を見上げ、


「あたし、お腹空いた!」


 そう言った。俺のことを、こいつなりに気遣ってくれているのだ。

 まったく――。


「奢ってやるよ。何がいい?」


 俺の問いに瑞樹は、


「あたし、ラーメンがいい!」

「ラーメン?」

「うん。この辺に、おいしいお店があるんだって」


 瑞樹が人懐っこい微笑で言った。俺もようやく、微笑を浮かべる。


「じゃあ、行くか」

「うん!」


 俺と瑞樹は、ラーメン屋を探すために歩き出した。



 CASE 1 ――鬼――   完


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草薙陰陽奇譚 赤鷽 @ditd

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