かつて英雄がいた世界

「先生、絶滅した生物の勉強なんて将来なんの役に立つんですか?」

 シグリトは持ち前の不遜さを隠そうともせず、先生に問い掛けていた。彼が退屈しているのは明らかだが、それは今日に始まったことではない。

「ドラゴンについて学ぶことは、この国の成り立ちを知ることと密接な繋がりがあるのですよ。それにシグリト、竜殺しは貴方の祖先の話でもあるのですから、もう少し真面目に授業に励むべきです。」

 現代の賢者たるマリーナ先生は、シグリトを諭すように嗜める。

「でも先生、今の時代、危険な魔物なんてもう居ないし、魔王も滅んで、ゴブリンもオークも随分昔に融和したんでしょ? 平和の時代に必要な知識なんて無いと思います。」

 物知りパーシーが浅学にも賢者に意見する。

「過去を、歴史を学ぶことは、将来に備えることの出来る唯一の武器なのですよ。我々に未来を知る術など無いのですから。」

 脅威の無くなった世界から予言者が去って久しい。絶たれた秘術を補えるのは勉学のみである。

「全くつまんない時代に生まれたもんだよな? 力が有ったって使い道が無いんだから。俺もご先祖様の時代に生まれりゃ良かったぜ。」

 男勝りなアキシーが、何時もの調子で皮肉るとクラス中に笑いが起こった。

「こら、アキシー、何てことを言うんです? 罰当たりにも程が有りますよ? さぁ無駄話は終わりにして授業に戻りますよ」

 英雄の卵達はとりあえずの返事をした。新たな英雄が生まれぬ世は、幾久しく続くだろう。

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絶望的にファンタジー モリアミ @moriami

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