第33話 遅すぎた察し

 あれから数日、未だにクリスは見つかっていない。

 でも大丈夫。今はミミ・ロゼリックが付いている。


 俺は街を歩く。


「今のランクは43112位か……そろそろランク上げしないとな」


 俺はその思いを胸にパスカードを眺める。


 そう言えばこの辺は下位生帯が多くいる地域だったなぁ。


 んー……上位生地帯の場所に行くっていう手もあるけど……場所移動するのめんどくさいしなぁ……第一にちまちまとランク上げるのもなぁ。


 何だかんだ俺は今、喫軌本部の掲示板の前にいた。

 手っ取り早くランクを上げるために緊急依頼を受けようという根端こんたんだ。


 運よく今、緊急依頼が張り出されていた。



 ◇◆◇緊急依頼◇◆◇


 内容:バサリックキャロット・改の討伐

 場所:ココロット湖

 報酬:80000ゴールド

 受付:喫軌本部内のリリクス

 条件:なし

 補足:入門用の緊急依頼となっています。



 ……。


 どうやら出ている緊急依頼は入門用らしい。

 中位生の俺には関係ない事かぁ。

 他を見ても緊急依頼はこれしか見つからない。


 俺は分かりやすく落ち込む。


 帰ろうとしたその途端、とある人が運営本部から飛び出してきた。

 緊急依頼を受けに来た人かと思ったが服を見ればわかる。運営の人だ。


 俺はその行方を眺めていると、運営の人はどうやら掲示板に用があるらしい。



 運営の人が去った後、俺はもしかしてと淡い期待を寄せながらもう一度掲示板を眺める。

 案の定、緊急依頼の枠は二つに増えていた。



 ◇◆◇緊急依頼◇◆◇


 内容:★★

 場所:★★

 報酬:1000000ゴールド

 受付:ミミ・ロゼリック

 条件:なし

 補足:★★



「な、何だこれ……」


 俺は緊急依頼を見て唖然とする。


 内容、場所、補足等が全て書かれていない。

 書いてあるのは報酬がバカみたいな金額であるということと、受付を担っているのがミミ・ロゼリックであるという事。


 俺は何らかの意図があるのでは無いかと思考を巡らせる。

 だがいくら考えても思い当たる節はこれぽっちも見当たらない。


 受けたい気持ちも山々なんだが……受付ミミ・ロゼリックと言われてもなぁ。

 どこにいるか分からないし。


 俺は掲示板からクルリと回転して方向を変える。


「って……」


 道の端にミミ・ロゼリックが突っ立っていた。

 ミミ・ロゼリックはこちらを向くことなく、暇そうにしている。


 俺はササっとミミ・ロゼリックの方に駆け寄る。


「あの……」

「あぁ! ムネト君!」


 こちらに気付くと、子供のようにキャッキャと反応する。


「それで、依頼受けてくれるのかしら?」

「って言われても……内容が……」

「あぁ……赤尾花あかおばなの調達でいいわよ」

「そんなので良いんですか?」


 赤尾花とは本当に入手するのが簡単な植物。

 地球で言うたんぽぽくらいの価値だ。


「いいわよ」

「じゃあ、受けます!」

「おっけ。じゃあ決まりね」


 俺は軽い手続きを行ったのち、オカランドを後にした。


 疑問に思う所もあるがまあいい。これで1000000ゴールドをゲットでき……。


 って俺ランク上げに来たんだよな。何してるんだ俺……。

 まあいっか。



 数分間マゼラ森林を詮索する……。


「あれ……全然ない」


 マゼラ森林を通ると嫌というほど目に入るような植物。

 それなのに全く見当たらない。

 けどこういう事ってよくあるよなぁ。本当に欲しい時だけ全く見つからないってやつ。


 俺はマゼラ森林の奥へと進んでいく。

 本当に全く見つからない……。


 さらに奥へと進んでいき、とうとう赤尾花を発見する。


「やっとみつかったよ……」


 クタクタの中、俺は額の汗を拭い、その赤尾花に手を伸ばす。


 今更俺はふと思う。


 ミミ・ロゼリックが何故こんな試練を出したのかという事だ。


 しかも緊急依頼として。そんなに至急の問題なのか?

 そもそも赤尾花が緊急で必要ってどんな状況だよ。

 仮に本当に必要としていたとしても、大甕のミミ・ロゼリックの事だ。自分で探したほうが早いに決まっている。

 それなのに何故俺に頼んだんだ。


 もう一度ミミ・ロゼリックの言葉を振り返る。


赤尾花あかおばなの調達でいいわよ』


 確かミミ・ロゼリックはそう言っていたよな。

 気になるのは最後の部分。


『でいいわよ』


 何度も何度も頭の中でこの言葉をループさせる。


 つまり……赤尾花である必要はない?

 それなら何故……。


 色々な思考がめぐり合わせる中、ついつい悪い方へと考えてしまう。


 俺をおびき寄せるための罠……。


 ……。


 俺はヒヤッと背筋が凍る。

 何でミミ・ロゼリックはあんなに優しかったんだ……。


 俺は一瞬にして赤尾花へ伸びる手を引く。


「あぁあぁ」


 何度も耳にした声が俺の耳を伝う。

 いや少し違う。


 俺はゆっくりと後ろに目を向ける。


「あー……バレちゃったかぁ」


 先ほどと同一人物とは思えない。


 オーラと言っても先ほどとは全く違う。

 偉大さとか、優しさとか、そんな立派なものではない。


 明らかに邪悪で、不気味なオーラが、ミミ・ロゼリックからは滲み出ていた。









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完璧な姉を真似し続けてた俺は、異世界では何でも真似できるようです。 華夏猫 @kakaomamecat

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