第46話

「あ゛〜〜〜〜、面倒くせー。アホほど面倒くせー。神並みに面倒くせー」


「か、神並み...?キャプテン、大丈夫ですか?そろそろ休んだほうが...私が代わりますから」


 椿が心配して声をかけてくれる。


 僕はあれから4時間ほど、ずっとこの切断されたコードの修理に取り掛かっている。

 機械班員の奴等にも手伝ってもらってはいるが、メインは僕がやったほうが効率的だ。


 少し首を傾けるだけでバキバキとなる。だいぶ凝っているようだ。

 こんな疲れた状態でずっと作業を続けるのもあまり良くないだろうから、散歩にでも行ってくるとしよう。


「じゃあ、僕が戻ってくるまで少し頼めるか?散歩してくる」


「はい!任せてください。」


 椿は相変わらずの爽やかスマイルを見せると、早速作業に取り掛かった。


 僕はそれを目尻に外へ出てゆく。


 ずっと薄暗い場所で作業をしていた為、外の明るさに一瞬視界が真っ白になる。

 そう言えば小さい頃にヒマラヤに行った時もこんな感じだったっけ。


 飛行機から降りると視界が一面真っ白になってかなり困惑していたのを覚えている。


 もし、第二の地球が見つかったら、その時は皆で一緒に山を登ってみるのも良いかも知れない。

 僕はヘリを使うけど。

 登山ってなんだか面倒だしな。家でゴロゴロしてるほうが性に合っている。


「宇界、何があったんですか?」


 声がして背後を振り向くと、そこには御影が立っていた。いつの間に外に出ていたのだろう。

 あれ、御影に宇宙服の収納部屋の鍵なんて渡したっけ......?


「御影、その宇宙服、何処から持ってきた?」


「勿論、収納部屋からに決まっているじゃないですか。なんでそんな事を聞くんですか?」


「僕は、収納部屋には必ず鍵を掛けている。どうやって入った?」


「元々開いていましたよ?てっきり宇界が開けておいたのかと。ですが、よくよく考えてみると...いくら危機感の無い天才科学者の宇界サマでも流石にエンジンが危ないって時に宇宙服の収納部屋の鍵を開けておく訳ありませんか...」


「危機感の無いって......でも、それじゃあ誰が何のために鍵を開けたんだ?」


「.........大体の状況は把握しています。多分ですが......収納部屋とエンジンの犯人は同一人物ではないでしょうか」


「そうかも知れないな」


 僕は額にシワを寄せる。どこの誰かは知らないが、この犯人......只者ではない。

 最初は王道を疑っていたが...王道にこれ程の事をする技術はなかったはずだ。

 少なくとも、僕の見た限りでは。


「共犯者がいれば可能ですね」


「!」


「王道を疑っていたのでしょう?でもあいつにはこんな事をする技量はなーいって。ですがそんな彼でも共犯者がいると見れば犯人になり得ますから」


「よく考えていたことが解ったな」


「顔に出てるんですよ、解りやすい」


 そう言って御影は眉をひそめて笑った。

 こいつとは話が早く進むので、煽ってきたりしなければ全く面倒ではないと思っている。

 頼りになる奴がいるだけで、こんなにも落ち着くものなんだな。


「宇界はいつも落ち着いてるじゃないですか。危機感というものが辞書に無いくらいに。」


「勝手に心を読むな」


「あ、あってました?」


「.........教えね」


 そう言って僕は船の方へ歩いてゆく。


 気が付くと僕は薄っすらと笑っていた。

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