第40話

 僕は着地準備体制に入るまでは休んでいろと機械班の人々に言われたので、現在自室にて◯魂ぎ◯たまを熟読中。


 普段なら読み進めながらゲラゲラと笑っていたところだが、今は笑えるような気分ではないので、常に真顔の状態だ。

 

 僕はベッドから飛び降り、弟の部屋へ向かう。前回は久しぶりすぎて顔を見るだけで満足して帰ってしまっていたから、肝心な『聞きたかったこと』が聞けていないのだ。

 今は漫画を読む気分では無いので丁度いい。


「498、499,500...」


 501。僕はそのドアの前で暫くその番号を見つめてからノックをした。

 なぜ見つめていたのかは解らない。

 別に緊張しているとかではないのだが。


 ガチャリ、とロックを解除する音が聞こえ、ドアが開いた。


「あ、キョウヤのお兄さん!どうぞ、中に。キョウヤは今、この部屋にいないんですけど....すぐ戻ってくるはずです。」


 じゃあ遠慮なく、と部屋に入る。


 部屋は相変わらず昼間と夜のように真っ二つに別れている。夜が景夜の方だろう。


 それにしても、この少年は日本語がうまいな、やっぱりハーフか?


「ボクはカイン、カイン=フローソンです。キョウヤとは小3からの付き合いでして。カナダから転校してきて、日本語があまり解らなくて困っていた所をキョウヤが助けてくれました。英語が本当に上手くて、とても驚いたのを覚えています」


 そう、お茶を入れながら語ってくれた。景夜がそういう人助けをするとは。さては裏があるのだな...?


 僕が見てきた限りでは、景夜は父に似ており人助けはしない、人とは必要以上に関わらない一匹狼のような奴だったはずだ。


 家でだけ本性を現していたのだろうか?それとも、友達と一緒にいる時の方が素なのだろうか?


 これは後々真実を見出す必要がありそうだ。


「学校では、景夜はどんな感じだった?」


「え、えーと、なんと言うか...とても、優しいです。よく笑う人で、たまに暗いところもあるけれどしっかりとしていてリーダーシップがあります!」


 なんだか想像ができないな。あいつがよく笑う.....冗談だろ?僕も他に比べるとかなり無表情な方だが、景夜は僕の遥か上を行く。

 まるで面でもかぶったように殆ど表情を出さない。というか、全く。


「別にそんなんじゃねぇ。なんでいんだよ、もう来るなって言っただろ。バカ兄貴」


 気が付くと背後には景夜がたっていた。


「冷たいな、バカ兄貴は酷いだろ」


 僕は少し顔をしかめる。やっぱりそろそろ景夜との関係も改善していきたいと思っている。

 仮にも血のつながった兄弟なんでな。


「クズのほうが良かったか。それともゲス?」


「クズやらゲスやら言われるようなことはしてないと思うけどな」


「フンッ」


 え、僕って何かやらかしていたか?さっきの『フンッ』は理由がわからないのでかなり怖い。


「ゲスは取り返そう」


「クズの方は?」


「無理だな」


「何で!?」


「......本当だから」


 僕は、本当になにかしたのだろうか。心当たりがまったくない。

 少なくとも、景夜には何もしていなかったはずだ。


 これが親父だったら心当たりがありまくるんだけどなぁ。


「とにかく、クズのことは今は置いておいて。ひとつ景夜に聞きたいことがあって来たんだ。」


「僕には答えることは何も無い。解ったらさっさと―――」


「まぁまぁ、本当にひとつだけだからお願いだ。」


「.........用事が終わり次第速やかにこの部屋を出ていってくれるなら」


「約束する」


 僕ってそんなに嫌われているのか?さすがの僕も悲しくなってきたかも知れない。


「で、質問ってのは?」


「孤狐家、って知ってるか?」


「あぁ、というか、数十年前まで我が家と同じ規模の財閥でライバルだった家だ」


「そうなのか...」


「知らなかったのか」


「いや、家が嫌いだったものだからあまり知らない。特に父さんが」


「...なら無理もない。父上の書斎にある本棚にとある日記と資料がある。」


「はぁ」


 そうなのか、今初めて知った。家よりも宇宙のこと知ってます系男子だから家のどこに何があるのかなんかはあまり知らない。

 知っているのは家中のエアコンのリモコンの在り処と父、弟、母、僕の寝室、食卓、音楽ホールに研究室だけだ。あと、リビング。


 父の書斎や、図書室てきな部屋もあるらしいが、何処にあるのかは知らない。


「その日記は何世代も前から付けられてきたもので、新世財閥を立ち上げた新世優雷ゆうらい、新世那由絶なゆたの代から受け継がれてきている。勿論、祖父のものも入っているし、父上のものもある。この日記は家を継いだときからつけることを義務付けられている。だからお前も付けるはずだったんだよ、バカ兄貴」


「いや、それは違うな」


「は......?いや、だってお前は長男で―――」


「長男が一番なんて考え方は古いんだよ」


「............」


「で、その日記と資料だったっけか?それがどうした」


「あぁ、そこに孤狐家の事が書いてあった。なんでも古くからのライバルで今ではもう新世家が圧倒的に追い越して頂点を取ってしまっているが前は互角だったと。それに、僕はよく世話になった。」


 世話になった?良い方の意味か、悪い方の意味か、どっちなのだろうか。

 悪い方だったら今すぐミヤギをとつきに行こう。僕の可愛い弟に何をする。


 あっ、本音が


「家ではお前が色々やらかしまくっていい迷惑だったから孤狐家にお邪魔して避難していたことがよくある。というか、恒例行事だった。」


「え、マジカヨ」


 なんだか...すみません、ミヤギさん達。うちの弟がお世話になっております。

 

「泊まりのときも何度かあった。父上とお前がバッチバチになっていた時な。無言の争いは怖かった」


「あー、ごめんな。怖がらせて」


「は?いや、お前謝るような柄じゃないだろ。何があったんだよ、最近変だぞ?」


 前が変だったんだよ、と小さく呟く。

 今の僕が素だから。


「じゃあ、ミヤギってのは知ってるか?」


「あぁ、よくパーティーとかで会っただろ」


「え、嘘」


 景夜は小馬鹿にしたように鼻で笑うと、再び口を開いた。


「まぁ、お前はまず参加もしていなかったから知らないだろうけどな」


「だったら『会っただろ』じゃないだろ。で、ミヤギってどんな奴だ?」


「ミヤギさんは......地球をよく愛する優しい人だ。でも、偶に物事をゲーム感覚で見てしまう癖もある。でも正義感の強い人で...あと、モカパフェが好きだ。」


 何、キャラメルソルトじゃないのか。でも、モカも結構好きだから許そう。

 というか、最後のだけいらなくないか?


「ありがとう。それじゃあ、僕はこれで。」


 そう言って部屋を去ろうとすると、景夜に腕を引っ張られ引き止められる。


「何?」


「本当に、変わったな」


「今までもこうしたかったけど出来なかっただけ。じゃあ」


 僕はドアをしめる。

 最後のドアのすきまから見えた景夜の顔は混乱したような、なんとも言えぬ複雑な表情で曇っていた。


 少しは、関係を改善の方向へ持っていくことが出来たのだろうか。


 少なくとも僕が部屋を訪れたときと去った時とで対応に差があった気がする。



 この絡まりまくった複雑な家族関係を、せめて兄弟の部分だけでも解きたい。


 それは、第二の地球を探すとともに解決していきたいミッションだ。


 そうすれば、第二の地球も新たな関係にもたどり着けるだろう。



 それら2つを達成した先が僕のニュー・ワールドだ。

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