第39話

「皆、聞いて欲しい。」


 それまで騒がしかったのが、僕の一言で静まり返る。


「先程の警報で、皆驚いているのは解る。だが、あまり騒がないで欲しい。本当に緊急事態のときはアナウンスで状況と指示を出すから、それ以外の時は皆は小学生の時の避難訓練の気分でいて欲しい。『おはし』いや、『おかし』だったっけか。それを忘れないで欲しい。この宇宙空間でも」


 おさない、はしらない、しゃべらない、か。騒がない、もしくはパニクらないも入れたいな。おはさし?おはしパ?おはしパーティーみたいだな


「すみません、一つ質問をしてよろしいでしょうか」


 後ろの方で手が挙がる。


「どうぞ」


「先程の警報は何があったのでしょうか。」


「少し誤作動が起きただけだ。特に心配する必要はない。」


「ありがとうございました」


 普通に誤作動なんて言う嘘をついてしまったが、しょうが無いだろう。

 皆不安な中で、あー、ちょっとエンジンが〜なんて言ったら更に不安を煽るだけだ。

 ただでさえ危険な宇宙空間で皆不安なんだ。できればトラブルが起こっても皆には知らないでいて欲しい。今度、僕の部屋と機械班員達の部屋、コントロールルームだけに警報がなるようにしてみようか。


 できるかどうかは解らないが。


 あの父親のことだ、何らかの事態を想定してロックがかけられているかも知れない。

 探せばパスワードは出てくると思うが、少し面倒だ。


 出発早々こんなにトラブルが起こるとは...


 僕はこれからの事を想像し、深くため息をつくのであった。



 ◆



 王道は自分のしたことを後悔し、自己嫌悪に陥っていた。

 

(あの狐男に協力するためとは言え、エンジンの回路を遮断したのはやはり間違っていたかも知れない。これで治らなかったら、第二の地球なんか見つからないじゃないか。)


 彼は一見体育会系の脳筋ではあるが、実は頭もそれなりにいいのである。


 勿論、宇界や御影とは比べ物にならないが、それは殆どの人に当てはまるので比べる相手が悪いだろう。


 生徒会本部役員を務めていた千寿と同じくらいの学力と思えばいい。


 先日宇界と英語で話したときのように、王道はどちらかと言えば文系で、英語に関しては群を抜いていた。


 文系が故か、理科知識はあまり無い。


 勿論、中学などで習うものは全て理解しており、頭に入ってはいるが宇界のように惑星などの知識はないのだ。


 この船にはどうしても宇界は必要。でも、その宇界を「排除してしまおうか」などと考えている男に協力している。


 そんな自分を攻め立てていた。


 が、共にミヤギという男について頭を抱えていた。


 ミヤギはなぜか、エンジン回路を遮断する方法を知っていた。それもかなり精密に。


 その回路のある場所への道やパスワードも知っていた。


 それは機械班とキャプテンしか知らないものだ。


 なのに、何故、ミヤギはそれらを知っていたのだろうか。


 あの、胡散臭い男は何者なのだろうか。


 そうやって、王道は部屋で延々と質問を繰り返したのであった。



 ◆



 ミヤギは騒がしくなったコントロールルームから出て薄暗い廊下でニタニタと笑っていた。

 流石にコントロールルームでは顔に出ないようにしてはいたが、流石に堪えきれず廊下に出てきたのだ。


 自分の掌で全てがコロコロと踊る。だが、その中で一人、掌を飛び降りて好き勝手走り回る男がいる。

 それが可笑しくてたまらなかった。


 自分の予想外の出来事が何よりも好きなミヤギは、最初の目的もあるが、そこに遊びの感覚も加わってきている。


 自分が悪役のようで面白い、と考え始めているのだ。


(さて、もう少し仲間を集めようか)


 そう思い、彼はその場所を後にしたのであった。



 ◆



 共有スペースにはまだ数十人残っている。


 そのうちの一人に闇のように黒い髪をもった癖毛の青年がいた。


(いや、先程の誤作動というのは嘘だ。あの新世冷夜が第一人者として作った船だぞ?そんな事、そうある訳がない。どうせ周りの馬鹿共を落ち着かせるための虚言だろう。有象無象が警報やら噂やらで騒ぎやがって。)


 その青年は、周りにいる友人達の話など完全に無視し、顔を曇らせ思考にふけっていた。


(この船に有象無象は必要ない。優秀な人材だけで十分だ。)


 そう思い立ち上がると青年は自分に話しかけてくる友人たちを無視し、共用スペースを出ていった。


(次もまた何処かに止まるのだろう。その時に選別を行わせてもらうぞ!!)




 そうして、また一つ、危険分子が生まれたのであった。

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