第38話

 人に裏切られたのは初めてだ。


 あぁ、しかも寄りにもよって王道か。


 副キャプテンを任せるくらいには、信じていたのに。


 僕は、どうすれば良いのだろう。もしかすると、ここにいる人の中にも裏切り者がいるかも知れない。


 裏切り者、か......僕はこの響きが嫌いだ。特に理由は無いが。


 もしかすると千寿が、勲が、黄昏が裏切っているかも知れない。唯一が裏切っているかも知れない。


 あぁ、全ての人が信じられない。


 人間、誰も信じることができなくなったらお終いらしい。


 だが、そんな事言われたって、怪しいものは怪しい。それを疑わないのはどうかと思う。全員怪しかったら全員疑うだろう。

 そんな事を考えていると勲に名前を呼ばれた。


「宇界!!.........宇界?」


「...なんだ」


「大丈夫か?」


「僕はいつもどーりだ。」


「いや、いつもの宇界はもっと元気だ。何があったんだ?」


「別に。」


「うーん、なら当てよう!誰かに裏切られて落ち込んでいる。そうだろ?」


「!!...よく、解ったな」


「勘は良いんだ!俺は!!」


「ああ、そう言えばそうだったな」


 勲に言い当てられるとは。


「落ち込むな!まだ完全に決まったわけではないだろ?」


「まぁ」


「じゃあ大丈夫だ!違うかもしれないからな!それに、人間、誰も信じることができなくなったら終わりだ。ずっと孤独になってしまうからな」


 勲に励まされるとは。だが、馬鹿なやつほど良いことを言ったりするんだっけ。


「あぁ、少なくともお前らは疑わない。すまなかったな、疑ったりして。」


「俺、疑われてたのか!?」


「いや、お前を疑った僕が馬鹿だった。お前が裏切ったら秒で解るだろうからな。」


 とにかく、今は外の人々を安心させないと。あとは状況が詳しく知りたいのだが...


「キャプテン!どうやらエンジンが一つ落ちた模様です!」


「エンジンが!?」


 ちょうどいいタイミングで状況を教えてくれたのは良いが、エンジンが落ちたとは。

 新しい船だし、エンジンが壊れる可能性は低いと思うんだけどなぁ。


「どういう風に?」


「はい、どうやらエンジンとこのコントロールルームを繋ぐ回路が遮断、もしくは切れてしまったと思われます。」


 一応、最悪の事態ではないので良かった。回路が切れているだけなら数日もあればこの機械班でなんとか治すことができるだろう。

 エンジンが完全に壊れてしまっていたら、地球に戻るか第二の地球は諦めることになっていたかも知れないからな。


「なら、急遽何処かにとまれ。船を治すぞ」


「は!」


 そう言うとその機械班員はその事を他の奴らに伝えに行く。

 そろそろ本当に名前を聞かないとな、説明が面倒くさい。


「宇界!これは正義の勇者の仕業か?」


「こんな時に何を.........ん?」


 正義?普通こういうことは悪がするんじゃないのか?


 ...まぁいいや。


 僕は共有スペースに乗員船員を集めてもらい、先日のパニック騒動の件のように再びステージの上に立つ。


 勲、僕は......王道をもう少し信じてみるよ

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