第33話

「土星の環へ接近中。留まりますか、キャプテン」


 髪を後ろでくくった赤髪の女性がたずねる。


「そうだな、この辺りで一番大きいやつにとまってくれ。」


「承知しました。」


 土星の環は氷でできている。それらは大中小様々で、勿論形も千差万別だ。


 なので、この船が留まることの出来るサイズのものがあっても不思議ではない。


 暫く沈黙が続く。この機械班は全員かなり真面目なのだろう。

 まだ2日3日程の付き合いだが、そんな感じがする。


 今度、ちゃんと名前を聞いておこう。

 趣味や性別やら年齢や出身なんかは興味はないが、名前を知らないと『あのイケメンが〜』『あの赤髪の女性が〜』と一々説明しなければならなくなる。


 そして、それはとにかく面倒だ。


「......駄目です、キャプテン。オーロラの反応がありません。フレアが発生すれば出る可能性はありますが...」


 太陽というのは偶にフレアというものが発生する。


 フレアというのは太陽の表面でおこる激しい爆発、それも数分〜時間続くもののことだ。


 フレアが発生すると大量の太陽風が送られてくる。すると、当然大気と反応し、オーロラがでる。


 言うほど簡単ではないが、太陽風のプラズマがその惑星の大気と衝突するとそれらが光ってオーロラになる。


 地球では酸素原子やちっ素分子と反応している。その結果があの黄色や赤だ。


 土星では何色か気になっていたんだが...無理そうか。


「そうか。ならオーロラは諦めて衛星にでも―――」


「キャプテン!!今、たった今、大量のプラズマを感知!フレアが発生した模様です!!!」


 絶対にこの中に大吉引いたやついるな。僕は6年連続小吉だぞ?強運野郎が。(誰かは知らないけど)


 こんなに運良くフレアが発生してくれるなんて嬉しいが...ちょっと怖くもあるな。不良がいきなり優しくしてきた時並に怖い。


「土星の真下まで行ってくれ!フレアが終わる前に見たい!」


 本当ならフレアに頼らずとも見えるはずなんだが、今日は駄目だったようだ。僕の小吉の影響?


 そんなフザケたことを言うのは止めにして、と。


 僕は千寿へ電話してみる。だが、暫くしても繋がらないので部屋まで早足で行く。


 途中、孤狐が誰かと話しているのを見たがスルーした。


コンコン...


 二回ほどノックをすると、ドアがゆっくりと開いた。

 だが、千寿が開けた訳では無いようなので、ロックをしていなかったようだ。


 僕は中には入らず、外で千寿の名前を呼んでみるが、返事がない。


 おかしいと思い、更にドアをあけ、一歩入ってみると成人男性の話し声のようなものが聞こえた。


 もう少し中へ入ると、千寿が床に座っているのが見えた。僕は何故か胸をなでおろした。


 ドアの外で名前を読んだ時に反応しなかったが、恐らくは聞こえなかったのだろう。


「千寿、少し来てくれないか?急用なんだ。」


「......うん。」


「何してんだ?」


「昔の、ひいひいひいひいひいおじいちゃんのビデオ。鹿とかがいた頃の......」


「また、観てるのか」


「うん。これを観て、なんで、地球を壊しちゃったんだろうって、考えるの。」

 

 いつもハイテンションな千寿サマがこんなにしんみりしているのは初めてだ。

 千寿はそのビデオを昔からよく観ていたが、全然しんみりとしてはいなかった。


 宇宙で、家族と離れてしまったからだろうか。


 僕にはあまり、家族というものが解らない。


 千寿の観ているビデオは、彼女の曽曽曽曽曽祖父が日本中をまわり、ひたすら遊びまくるというものだった。曽多いな。


 僕としては何故、ビデオを撮ろうと思ったのかが不思議なのだが、結果的に後世に以前の地球を伝えるものとなったので、まぁ結果オーライだろう。


「千寿ー、千寿サマー、プレゼントがあるから早く来い!」


「はーい、行きますy―――うわっ??」


 僕は千寿に目隠しをする。どうせなら何処に行ってるかも解らない方が楽しいだろう。


「はいシュッパーツ」


「え、どこどこどこ??え、どこいってるの!?」


「秘密でーす」


 僕はコントロールルームに入り、椅子を窓際に置き、そこに座らせる。


「え、取っていい??」


「駄目。もう少し待て。」


 ついでに勲たちも電話で呼んでくる。どうせなら特等席でみたいだろう。


 唯一には、前回と同じ様にナレーターをやってもらう。


 さて、唯一は大丈夫だろうが、勲は迷わずに来れるだろうか?一応地図は送ったが...できれば唯一と一緒に来て欲しいものだ。


 黄昏は...まぁ、ガンバレ



 ◆



 ミヤギは、早足ですれ違ってゆく宇界を見た後、ひっそりと彼の後をつけていた。


 宇界とすれ違った時、彼は王道と話しており、会話を聞かれたかと焦ったが、宇界の様子を見る限りそのような感じには見えなかったので、聞かれていないと判断した。


 だが、千寿に目隠しをして何処かへ歩いてゆくのが謎すぎて、コントロールルームまで付いてきてしまっていた。


「これ...コントロールルーム?」


 一般人はしらないこの部屋。宇宙船の脳。神経。


「へぇ......これで色々できるやん。おもろいおもろい」


 そこを一番危険な人物が知ってしまったのだ。

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