第30話
「うーん、やっぱり見つからなかった。ごめん!この船って広いんだね!今初めて実感したよ!!」
「おう実感してくれ」
あの勘は外れてほしかったんだがな。
僕は唯一に電話を掛ける。
『もしもし』
「唯一、皆集まったか」
『概ね集まったはず。それより、なんで皆を集めたの?』
「その内分かる。」
そう言って電話を切る。
「さて、行こうか」
「うん!」
◆
僕はステージの上へ上がり、マイクを取る。
「はじめましての人もいるかも知れないから、一応名乗っておく。僕の名前は新世宇界だ。」
恐らくは調理班として千寿についていった人々だろう、驚いた顔をしている。
「今日皆を集めたのは他でもない。人類の未来について、皆には念入りに話さないといけない。」
所々で息を呑む音が聞こえる。どんだけ大きいんだ、息を呑む音。
この先の、人類の未来のことを考えるとゲッソリとするのだが、今は無理してでも委員長キャラを演じる。いや、そういう気分になるだけでいいや。
全く、肩がこる。
「何があったのかはしらないが、皆が不安になっているのは解る。『人類が滅ぶかも知れない』『第二の地球が見つからないかも知れない』『このまま、何も出来ないまま死ぬかも知れない』そんな不安があるのだと思う。」
僕は無いが。僕の計算ではほぼ99%の確率で第二の地球は見つけられる。多少のズレがあったとしても、だ。まぁ、宇宙じゃあ残りの1%引いてしまう可能性も高いのだが。
「それらの不安はあってもいいと思う。いや、むしろなければならない。だが、失望はしてはいけない。今はまだ、太陽系を抜けてさえいないんだ。今はまだ安心していてもいいと思う。まだこの船が故障しても引き返せるところにいると、理解して欲しい。」
あ、でもこれじゃあ太陽系抜けた時にまたパニックになるか。
「だが、太陽系を離れたからって不安になる必要はない。宇宙は確かに広いが、無限に続くほど広いわけではないし、宇宙空間は危ないが、過去に何人もの人間が宇宙へ行き、無事地球に戻っている。この旅は決して不可能な『ミッション・インポッシブル』では無いんだ。猿だって無事生きて地球に帰った。僕らは地球に帰りはしないが、先人がで生きて戻れたなら、僕らが生きて第二の地球を見つけられないわけ無いじゃないか!これからも、トラブルはあったりするだろう。だが、周りを見てみろ。仲間がいるだろう?トラブルがあれば僕がなんとかしよう。たった一人で宇宙に来たわけじゃないんだ。もっと希望をもて!!何か荒れば皆で助け合えばいいだろう!!!」
くっっさい事言った。四分の三はテキトーに言ったことだから、少しヤバかったかも知れない。
宇宙に行ってからの地球への帰還なんてアホほど簡単になった時代だ。だが、人類は未だに太陽系の外へ行ったことがない。
地球への帰還と第二の地球探しとでは難易度にク◯パとク◯ボウ並の差がある。
だが、皆に希望を持たせるには良いスピーチになったのではないだろうか?
暫く沈黙が続く。こういう謎の雰囲気、苦手なんだよな。
すると、何処かでパチ、パチ、と手を叩く音が聞こえる。それは次第に多くなり、気がつけば大量の拍手に包まれていた。
それ程のものだったのだろうか?余り解らない。
だが、たまにはこうやって拍手に包まれるのも悪くはない。
注目される時は大抵面倒で嫌いなのだが、こういうスッキリするようなものは大丈夫なようだ。
少し、笑みが溢れる。
この船の乗員は、皆バカ素直なんだろう。恐らくは勲のように。
こいつらは、僕が、僕たちが支えてやらないとな。
そう、思った瞬間であった。
◆
そのホールが拍手に包まれた頃、一人の男がそのホールの隅で宇界を睨んでいた。
(俺が折角前に出てまで仕込んだものを...これじゃあまたスタートラインに逆戻りではないか。だが新世宇界君、君の対処法が見れて良かった。まだこの船には希望があるのかも知れない。話していることの大半はデタラメだが、人々を安心させるにはそうした方が確実だからな。)
その男...孤狐ミヤギは細長い目を更に細めてふと笑った。
「おもろいわ。まだ、新世家も捨てたもんやない言うことやろ?せやけどなぁ、次もちゃんと用意したるで。少しおもろくなってきたからなぁ」
そう、聞こえるはずもない宇界に、独り言のように呟くとふらりとその場を立ち去った。
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