第23話

「キャタピラなんざ普通の歯車いくつか揃えてこのラバーで包んどきゃあ概ね完成だ。まぁ、本物はもっとちゃんとしてるがな。複雑で。」


「そのラバー?切れたりしないの?ほら、氷で凸凹してるし。それに、滑るんじゃ...?」


「切れはしない。それに、滑らないよう釘を打ってあるから大丈夫だ。」


「あ、本当だ。」


 唯一は釘の部分を見るために近寄ってくるが、僕が鬼だということを思い出し、急いで離れる。

 別に今は捕まえる気なんて無いんだがな。

 このソリの性能見せられなくなるし。


 このソリは無限軌道キャタピラを使っているので、一見戦車のようにも見える。今度迷彩柄にでも塗って筒でも付けてみようか。あいつら絶対に驚くぞ。


「後は、ペダルを付けたら完成だ。ほらな?簡単だろ?」


「うん。正直こんなに簡単だとは思わなかった。普通ソリだったら別だけど、こんな変なソリ...ってか、そもそもこれってソリなの?」


「...僕がソリと言ったらソリだ!」


「えー、何そのジャ◯アン的セリフ...」


 いや、ジャ◯アンは「お前のものは俺のもの、俺のものも俺のもの」だろ。なにか他にもあったか?これは名言なので覚えているのだが...他はあまり知らんな。


「そんじゃ、ちーとマンパワー確保してくるわ」


「え!?あ、いってらっしゃい」


 そう言うと、唯一は急いで逃げていった。おそらくは何処かに隠れるつもりだろう。速さではこのソリに勝てないだろうからな。


 僕は早速船へ向かう。


 王道でも連れてくるとするか...




 〜時は少し遡り、ソリ完成とほぼ同時刻の船内にて〜


「そこで、や。王道はん、あんたはなんでも王様になりたいらしいやないか。」


「そうだが...」


「俺と、手ぇ組めや。そないしたら本当のキャプテンになれるかもしれへんで?何なら第二の地球で王様もなれるかもしれへん。少なくとも、あの新世宇界と一緒にいるよりは可能性はグンと上がる。どうや?」


 王道は暫く考え込むと、顔を上げた。


「さっきは普通に標準語話してたのに今は関西弁なんだな。」


「いや、そこぉ!?まぁええや。こっちのほうが楽やからなぁ、流石に演説のときなんかは標準語やけど。」


(正直、この人がどんな奴かは知らないが、確かに新世宇界の元で働いていていたら、俺が王にはなれないだろう。暫く、様子を見るか)


「協力させて貰おう」


「!!あはは、嬉しいなぁ。じゃあ、早速やけど次新世宇界にあった時は、いつもどおり接しづつ、彼の監視を頼みたいねん。」


「監視?」


「せや。すぐに行動起こすわ訳にはいかんやろ?ゆっくりと、じっくりと、作戦を練って。仲間を増やして。あっちの勢力を弱体化させて。ほんで一気に引っくりがえすんや。」


 恐ろしい、と王道は心底震えた。この男の細い目が狐を連想させ、第一印象は『胡散臭い』だった。

 今でも胡散臭いと思ってはいるが、恐らくこいつは腹黒だ。策略家だ。策士だ。

 物を、人々を手のひらで転がし回す、恐ろしい悪魔だ。

 

 まだ会って間もないが、この男、間違いなく頭はキレる。

 そして、宇界も恐ろしく頭の切れる男だ。

 

 「どちらに付けば勝機があるのか」そのことに王道は大変悩んだ。

 負けてしまっては王も何も無くなってしまうからだ。


 宇界の武器が科学知識だとすれば...この男の武器は何なのだろう。


 既に協力すると言ってしまったが、本当に良かったのだろうか。


 途中で裏切ることもできなくはない。が、できるだけそれは避けたい。


 宇界に恨みがないからこそ、いや、だらついた態度以外には既に少し尊敬し始めているために、王道は宇界を裏切るのに大いに躊躇った。


「あ、王道!やっと見つけた...」


 が、今はもう、そんな事を言っている場合では無くなったようだ。

 王道はあの男に言われたとおりにいつもどおり接する。


「なんだ?何かあったのか?」


 裏切りほど辛いものはない。裏切った後の罪悪感はずっと付き纏う。


 そのことに、王道は今始めて気が付いたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る