第22話

 鬼ごっこを始めてから数十分経つ。 

 ここで、僕はとある重要なことに気が付く。


「これ、いつ終わるんだよ」


 僕らがやっているのは普通の代わり鬼だ。

 なので、明確な『終わり』がない。


 普通なら、「チャイムが鳴ったから」や、「家に帰る時間になったから」や「疲れたから」という感じに終わるものなのだが、生憎僕以外は全員体力無限ゴリラだったようだ。しかも、重力が大変弱いため、彼奴等いつもよりも身軽だ。


「タッチ!ハイ、カメラ。宇界クン、ガンバ!」


 殆どカタカナだったぞ、宇宙人かよ。


「クッソ喘息舐めんなぁああああああ!」


 そう、僕は喘息なのである。


 ならば、なぜ参加したと疑問に思う者もいるだろう。

 答えは簡単。

 参加しなかったらなんか逃げた感じでなんか嫌だから。

 本当、なんか彼奴等とつるんでいるとなんか色々と面倒事が増える。もうヤダ。

 語彙力も下がったし。


 僕は千寿に渡されたゴープ◯を付け、追いかけるが、距離は一方的に縮まらない。


 頭を回せ。何かあるはずだ、解決法が。何か......


「!!」


 僕は船の方へ戻り、倉庫を開ける。

 中にはジャ◯プの山に、救急手当に必要なもの、船の予備部品、燃料の予備に...何に使うかは解らないがとりあえず詰め込んできた部品達が入っている。


「早速作るか。」


 エウロパは...仮にも氷の世界だ!

 ガッタガタでもソリくらいは滑れる!


 これは効率重視で造っていくので、なるべく簡単な構造が良い。

 と言うか、これは物作りのお話ではないんだけどな。

 そういうのはDr.ST◯NEに任せたい。

 

 なので、ここはそれ程詳しくは説明しない。

 第一、説明することもないしな。


 ソリの構造は簡単。氷と触れる”あし”に、人の乗るボートのようなところだ。

 それを空飛ぶトナカイが......いや、現実的に行こう。それを犬やら馬やらが引く。


 だが、お生憎ここには馬も犬もトナカイもルードルフもいない。ならば、当然エンジンなんかを使う羽目になる。


 だが、エンジンを一から造っているほど時間はかけていられない。


 ならば当然人力となる。


 だが、僕はそんなエイサーホイサー漕ぐなんてことはできない。


 そこで、この鬼ごっこデスゲームに参加していないやつを連れてきて漕がせる。


 すると、スピードUPで、僕も疲れないし喘息の発作も気にしなくていい。

 WIN-WINだ!←(何もWIN−WINじゃない)


 おおっと、反則なんて言わせないぞ。鬼ごっこにソリを使ってはいけないなんてルールはないからな。


 僕はまず、座る部分から作り始める。人が二人乗れる大きさで十分だから、適当なサイズに板を切り、組み立てる。箱ゾリでも良いかと思ったが、もう少し平べったい形の方が良さそうだ。


 これで人の座る部分は完成。


 続いて、肝心な地面と接する、スキーの部分だ。


 一応スキーは一セット一式持ってきてはいるのだが、それだけではイマイチスピーでが出ないだろう。


 なので、ここは無限軌道を使う。


 たしか、タイヤのゴム部分が倉庫の奥にしまってあったはずだ。


 僕はそれを取るために物を出したりどかしたりしていると、その音に気がついたらしく、何処からともなく唯一が生えて...出てきた。


「な、何してるの?」


「無限軌道作るためにラバー部分探してんだ...よっ!」


 ガコン


「お、ミッケ。」


「え、無限軌道??何それ??」


「一般的にはキャタピラって呼ばれてるやつな。でも、キャタピラは商品名だしな、無限のほうが正式名称。」


「で、宇界君はその無限なんちゃらを何に使うの?」


「戦車っぽいソリ」


 唯一は顔を引き攣らせる。


 彼が宇界の近くにいるのは、宇界の速さでは彼を捕まえることができないと解っているからだ。


彼は宇界から丁度7メートルの位置に立っていた。それは、宇界が今の立っている状態から追いかけたとしても3秒かかる場所だ。


3秒もあればあらゆる企画で鬼ごっこをしてきた唯一には十分逃げられるのだ。


 宇界なら計算しているであろう所を、唯一は直感で理解していた。


 それを見抜いた宇界は笑わずにはいられなかった。こいつが王道みたいな思想を持っていたら危なかったかもしれない、と。そう思っていた。


「よっし!まずは歯車作る...いや、倉庫に入っていたかもしれないな、探してみるか...」


「ソリ使うとか反そk...」


「おっと、反則とは言わせねーぞ。ルールの何処にもそりを使ってはならないなんて書いてはいないからな」


「ちっ」

 



 〜それとほぼ同時刻、船内にて〜



 一人の年若き20代あたりの男が、皆の集まっている船のリビングから離れ、一人思考にふけっていた。


(新世宇界...俺の情報網によると彼がキャプテンだ。だが、公にはあの王道などという青二才がキャプテンとされている。何故だ?よほどの理由があるのだろう。)


 その男は椅子から立ち上がると、部屋を出、廊下をウロウロと歩き回る。


(理由は最悪解らなくてもいい。今一番気になるのは何故、彼がこの条件下であれ程に落ち着いているのか。何故、あれ程に遊び回ることができるのか。)


 男は先程よりも早足になる。


(新世宇界なら、必ず第二の地球でも科学文明を発達させるだろう。科学が便利なのは確かだ。日常に欠かすことはできない。が、その科学が今の地球の現状を招いた。それをまた繰り返すのは愚か.........)


 男の顔には次第に笑みが浮かぶ。


(正直、キャプテンが今のままではダメだ。それに、乗員には、全員いまの状況を本当に理解してもらわないといけない。今我々が『宇宙』にいるということを実感できているものは極めて少ない。それでは何ら危ない。ここは少しパニックになってでもちゃんと理解してもらったほうが良いだろう。オーケー、やることの整理はできた。俺が最初にするのは............)


 男は集会室、通称船のリビングの扉を開ける。


(新世宇界がいない内にこいつらに理解してもらう。そして、必要とみなした場合に彼を即排除できるよう、駒を確保する。)


 その男はステージの上へ登ってゆく。ステージの中央まで来ると、彼は眼鏡を直し、マイクをつける。


「エルピス03号の乗員たちよ!聞いて欲しい事がある!」


(新世宇界がいない間に終わらせる!彼がこの場にいたらおそらくは止められてしまうだろうからな。)


 その、当の宇界は外にて呑気にソリを作っている。


 彼の敵対勢力ができ始めようとしているのに気が付きもしないで...

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