第21話

 僕は今、再びエアロックの前にいる。


 なんやかんやで準備は予想していたよりも数十分遅れてしまった。

 本当、準備はもっと早く済ませてほしいものだ。

 その数十分でジャ◯プ一冊は読み終わったぞ。


「これからエウロパに降りる前に、基本知識をおめーらには付けておいてもらう。」


 本当なら全て頭に入れておいてほしいが、基本知識だけでいいだろう。


「まず1つ!重力が小さいからジャンプしまくんな。事故る。2つ!あちこち走り回るな。怪我+遭難する。3つ!宇宙服は脱ぐな。死ぬぞ。4つ!......いや、4つ目ないわ。とにかく風邪だけはひくな。んーじゃあ出るぞー。」


 エアロックの空気の通る、プシャアアと言う音がした後、僕は氷の世界へ、一歩踏み出した。


 視界が一瞬、真っ白になるが、しばらくすると全てはっきりと見えるようになる。


 そこには、一面の氷が広がっていた。


 凹凸が多く、無限に広がるかのように思えるその白き世界は、一瞬で冬を知らない僕ら現代の地球人を魅了した。


「ウ、ウカイ〜、この上、走り回っても良いんだよね?」


「あぁ」


「あそこまで行っても良いんだよね?」


「あぁ、好きにしろ。」


「!行こ!」


 なんでだろう、氷に反射された光がいつもと違う色だからか?輝羅々がなぜか可愛く見える。

 まぁ、僕は恋や何やらには興味が無いんで可愛いって感想行った時点で終わりだ。

 ファッション雑誌なんかと同じだ。モデルの人をみて、へー可愛いなんて言うが、別に好きってわけではない。

 可愛い=好きなんて決めつけた馬鹿がいるそうだが、そいつはどこのどいつだ。タイムマシンでも使って殴りに行こうか。


 ぼくは輝羅々に連れられ、他に比べると一際高い場所へ行く。


「「......!」」


 思わず、息を飲む。低い位置から見ても一面の氷は迫力があったが、ここから眺める景色はその比ではない。

 白い世界が、足元に広がっていると、実感できるのだ。

 惑星でもない、この小さな衛星でも、世界は途轍もなく大きく感じられた。


「...ウカイ、」


「なんだ」


「...今、この絶景だからさ、一つ、言っておきたいことがある、ん、だ...」


「だからなんだ」


 早く言えばいいのに、何をモジモジと...メスゴリラらしくもない。

 輝羅々は深く息を吸うと、僕の方を向き、ギャルらしくもない真面目な顔で口をゆっくりと開く。


「好き。ウカイが、好き。宇宙だとさ、何があるかわかんないじゃん?だから、先に、言える時に言っておこうと思ってさ。あはは、アタシらしくもない。」


「...」


「ウカイがさ、アタシのことなんとも思ってないの、知ってるよ、でもさ、絶対に好きにさせてみせるから、覚悟しろよ?」


 そう、輝羅々は真っ赤な顔を隠そうともせず、意地の悪そうに笑う。


「...唯一なんかどうだ?結構良いと思うぞ」


「なんでオススメメニューみたいに紹介してくるの!?マジありえないんだけど!!」


 そうやって話していると、千寿が勲達と共にやってくる。


「キララチャン、久しぶり!元気だった?」


「お〜!アタシはバッチグーよ!ちとせんは?元気〜?」


「うん!すっごく元気!元気すぎて元気だよ!」


 千寿の目が笑っていないから怖い。そんな顔もするのか。


「な、なんかちとせんのオーラが黒い感じがするんだけど。あと、アタシの警報が今すぐ全力で逃げろって告げてくるんだけど〜」


「逃げろ」


「だ、だよね。じゃっ!また船の中で会おー!次はアイラブウカイって書いたシャツ着るわ〜」


 本当に、あいつは


「阿呆ですね。そんなくだらない事言ってる時間を走って逃げる時間に変えれば良いものを。それに、先程の発言で更に千寿さんのオーラがドス黒く...全く、これだから低能猿どもは......」


 ...いつの間に、いたのだろう。こいつ、気が付くとすぐ背後にいるから本当に怖い。

 学園七不思議とやらよりもこいつが怖い。まぁ、霊など信じてはいないから元々怖くはないんだが。


「どうした?千寿。そんなどす黒いオーラ、お前らしくねーぞ?」


「あ、ううん!なんでも無い!ところでさ、輝羅々チャンと何を話してたの?」


 目がまたもや笑っていない。


「いや、ちょっとな」


「天才科学者の宇界サマ、それが答えになってると思ってるんですか?え?違いますよね?そんなんで納得するのは猿以下ですよ。」


「いや、良いよ、答えになってるよ。何があったかよぉおく解ったから。」


「...そうですか。流石ですね、千寿さん。」


 前々から気になっていたのだが、御影って千寿だけには妙に優しいよな。

 それにしても、あの輝羅々が僕の事が好きだったなんて、意外だ。

 それとも、ドッキリだろうか?唯一の差し金で...とか。


 いや、でもそれにしては表情がリアルすぎた。あいつにあれ程の演技力があるとは思えない。

 ならば、本当に本気、なのだろう。


 参ったな、告白されるのは苦手なのだが。


「ねぇねぇ宇界クン?遊ぼうよ!勲クンも!ほら!」


 僕らは千寿に引っ張られ、今度は低い所へ移動する。


「唯一クン、カメラ!」


「OKだよ」


「はい!エウロパで人類初の鬼ごっこ〜!鬼は唯一クンから!カメラは必ず鬼が付けておくこと!オッケー?」


「「ああ(!)」」


「それじゃあ、スターート!」


 あ、忘れてた。唯一は知らねーが、勲は言うまでもなく、千寿も実は意外と運動神経抜群なんだった。


 最初に捕まるの、僕だぁ

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