第19話【千寿視点】
「そろそろ着きます、キャプテン」
「ああ!」
宇界クン、とっても楽しそうにしてる。
いつもはつまらなそーにしてるのに。
ほんっと、変わらないんだなー、小学校の頃からそうだもん。
授業中とか、休み時間とか、遊んではいるんだけどどこか退屈そうだった。
でも、宇宙の事となると、死んだ鳥のような目が一気に輝きを宿す。生き生きとして、楽しそう。
偶に、何言ってるかわかんない(説明が難しすぎて)けど、その時はより簡単に、一見投げやりな感じの説明でも丁寧にわかりやすく説明してくれているのが解る。
小さい頃から『性格の悪く、好き勝手やってるダメ長男』演じてるからかな、普段の宇界クンは実に窮屈そう。
勲クンや私達と一緒にいるときはまだマシな感じに見えるけど...
やっぱり宇宙と向き合っている時の方が楽そう。
「千寿、目ン玉ひん剥いて見ておけよ。これこそが、世界最高の技術の結晶『エルピス03号』の力だ!」
私は窓の外を見る。衛星の外側の縁が太陽の光によって薄っすら光っているように見える。
そしてそこから次第に太陽のコロナ―――炎の部分―――が見えてくる。
私は、これを見たことによって、改めて実感した。あぁ、ここは宇宙なんだ、って。
あぁ、お母さんがここにいたら、喜ぶかな。お父さんがこれを見たら、笑ってくれるかな。
次第に涙がこみ上げてくる。
(ヤバいっ)
涙を見られないように、必死で顔を隠す。
泣いてる所は誰にも見せたくない。
私は、いつも、笑っていないと。
「目標......より......メータ...上.........3......1...」
「もっと...‥を弱く‥......」
「は!」
なにか、声が聞こえるけど、今は涙を堪えるので必死で、何も入ってこない。
私は目をつむり、深呼吸をする。そして、お母さんの事を思い出す。
(あれ、止まない...!)
それでも、涙は止まらなかった。いや、逆にもっと涙が溢れてきた。
いつもは、止まるのに。あのお母さんの優しい笑顔を思い出すと...
「お母さん......」
つい、声に出てしまった。でも、多分誰も聞こえてない。
私は、やっぱり地球が好きなんだ。家が、家族が、お父さん、お母さんが好きなんだ......!
「千寿、あのUtuber連れてこい。ちーとやって貰いたいことがある。」
私は急いで涙を拭く。そして、いつもどおりの笑顔をつくる。
目元、腫れていないかな、バレちゃうかも。
「いーよー!電話でいい?」
「ああ」
この感じ、多分バレてない。良かった、と胸をなでおろしながら唯一クンの電話にかける。
プルルルプルルルル...
『もしもし、どうしたの、千寿さん』
「あ、モシモシ唯一クン?ちょっとこっちに来てほしいんだけど...」
『こっちって言われても...今何処にいるの?』
あ、主語が抜けてた!
「今コントロールルーム!」
『コントロールルーム??そこへの地図かなんか持ってるか?』
「え?うーん、それは無いかも〜。」
地図かー、グルグルマップスは使えないからなー。
「ちょっと聞いてみるね?宇界クーン!」
「なんでィ」
あ、むっちゃ集中してる時の喋り方だ。この喋り方の切替って無意識なのかな?読者の皆さんも絶対に「一つに統一しろや」って思ってると思うんだけどなー。
「地図とかある?この部屋までのー」
「企業秘密だ。んー、だが、まぁ良いだろ。あいつ口は硬そうだし。あ、それよりも電話で千寿が道教えてやったほうが早いんじゃないか?」
...鋭い!刺さる!刺さるよ!
「あ!そーかも。え〜っと、モシモシ唯一クン?ごめんね、待たせちゃって。」
『話は終わったのか?』
「うん。私がナビになるから、今何処にいるか教えてー?」
『今は俺たちの部屋にいる。』
言い忘れていたかもしれないが、この船は寮のようになっており、一つの部屋を2〜4人でシェアする。
「あ、そこにいるの?じゃあすっごく簡単だよ!まずはそこの廊下をまっすぐ行って―――」
۞
コンコンコン!
来たっ!
「来たか。入れ」
私が入ってと言う前に宇界クンに言われてしまった。私が言いたかったのに。
「う、うわぁ......SFの船みたいだね...」
だよねー、小さい頃から宇界クンと一緒にいたから今はもう慣れっこだけど、初めて見る時のインパクトってすごいよね〜。
「感動やら感想は後で聞いてやるから、そこのマイクでこれ、アナウンスしといてくれ」
...良いのかな?その喋り方で。唯一クンって宇界クンのあの事知らないと思うんだけど...
でも、今はそれどころじゃない、って感じか。なんか、良いな。全力で取り組むことの出来る『何か』があるのって。
それがないと、人生って彩らないから。
唯一クンが、宇界クンから小さな紙...メモかな?を受け取り、マイクの方へ移動する。
やってほしいことって、アナウンスだったのか〜。なら、唯一クンを呼んだのも納得。
イベントや何やらでマイクで話すのは慣れているだろうしね!
ちなみに、私はあまりUtubeは見ない。どっちかと言うとTektok派だしね。
『皆さん、はじめまして。Utube にて動画配信しております、【ファミリア】のユイです。今日はキャプテンの依頼により、この船の着陸ショーのアナウンスをさせていただきます。
唯一クンが話しだしたので、私も近くに寄る。マイクの周りには沢山のつまみのようなものがあった。
なんだろう、横に『volume』って書いてあるから、『音量』か。そして、その次が『place』だから『場所』このつまみを動かすと音量、ボタンを押すと放送する場所を変えることが出来るんだ!へ〜〜!
始めて見た。
『今、我々は太陽系第5惑星、木星の四大衛星が一つ、氷の星「エウロパ」に着陸する予定です。なお、着陸には高度な技術が必要とされます。これ程大きな船なら尚更です。』
そういえば、前にも宇界クンそんな感じのことを言っていた気がする。なんでも、昔、火星から10g以上のサンプルを採るのに手こずっていたって。
それよりも前はちょんって一瞬だけ地面に触れて、そのままゴー!だったから、かなりの難問だったって。
でも、それでもちゃんと採ってくることが出来たんだから、人間って本当にすごいな〜って思う。
『そこで、新世財閥現当主であらせられる新世冷夜様直々に選抜された、最も優秀な者だけで形成されている機械班が、今、「エウロパには近づくな」と言われたほどに、表面が凸凹しており、着陸困難な星に全力で挑んでおります。』
私は、宇界クンがお父さんの名前を異常なほどに出したがらないので、それがメモに書いてあるのか気になって覗いてみた。
(書いてないじゃん!アドリブ!)
幸いなことに、宇界クンはやっぱりそれどころじゃないって感じでアナウンスは耳に入っていないみたい。
もし聞いていたら今頃いまにも雷が降ってきそうって感じの顔をするからなー。
『さぁ!クライマックスの着陸数秒前です!9!8!7!6!5!4!3...2...1!』
ポスン...
という効果音はなかってけれど、そんな感じがした。しょぼ!インパクトうっっすい!
「「「わぁっ!」」」
機械班の人達はすごい盛り上がっているけど、私はもっと、プシャアアアアアア...とか、ズド――――ン!を期待してたのに。
唯一クンの方を見る。多分同じこと思っているんだと思う。そんな顔してるし。
「エウロパ、降りるのかな?」
「降りるんじゃない?」
「だよね、私さ、寒いの大っっっっきらい!」
「でも、こんなにも多くの氷を見るのは初めてだ。」
「......そうだね、雪も見てみたい。」
「第二の地球なら、見れるかもしれないよ?」
「.........!うん!!!」
「「早く、見つけないとね(な)」」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます