Europa

第19話

「そろそろ着きます、キャプテン」


「ああ!」


 今からこの船がしようとしていることこそが、最高の技術だけのできる芸当だ。


「千寿、目ン玉ひん剥いて見ておけよ。これこそが、世界最高の技術の結晶『エルピス03号』の力だ!」


 僕は興奮で高鳴る心臓を抑えるように深呼吸をする。一ミリも、失敗は出来ない。

 だが、そんなハラハラ感がなんと言っても楽しいのだ。


 僕はレーダーでその目標着地地点に何も無いのを確認し、ゆっくりと船を下ろす。

 この星、エウロパはギザギザしており、着陸がとても困難だ。


 船を星に着地させると言うと、皆さんは隕石のように突っ込んでいくイメージがあるかもしれないが、それは全くもって違う。


 いや、間違いとは言えないのだが、それは地球のように大気―――説明は第3話参照―――の厚い星に限る。


 なので、今回とまるような大気の薄い、それも衛星ではそんなにインパクトのある着地はしない。というか、出来ない。

 ちなみに、知らない人の為に一応説明しておくと衛星というのは、惑星の周りをウロチョロしている小さい星。例えば月なんかがそうだ。


「目標地点より5万メーター上空。4...3...2...1...」


 爽やかイケメンな外見の青年(だと思う)は高度をカウントダウンし始める。

 カウントが速いな。

 僕は青年の前の一際大きな画面を覗き込む。これではまだまだ速すぎる。


「もっと勢いを弱くしろ。」


「は!」


 「はい」じゃないんだな。


「キャプテン!そろそろです!」


 その声へ振り返ってみると、金髪ストレートの美人がそこには立っていた。


 ここからは僕と機械が頭をフル回転しながら操作しないといけない、最難関パートだ。


 今更なのかもしれないが、この機械班、美形多くないか?だが、まぁ彼らと一緒にいると、僕だけが目立つなんてことは無いだろうから、面倒事から程よく回避できて嬉しいので別に特に気にしてはいないのだが。


「千寿、あのUtuber連れてこい。ちーとやって貰いたいことがある。」


 千寿の方を向くと、千寿はなんやら顔を袖でゴシゴシと拭いていた。

 なんだ?と思っていると、千寿の顎の辺りに雫が見えた。


 涙.........?


「いーよー!電話でいい?」


「ああ」


 泣いているのかと思ったが、いつもどおりの笑顔だ。それなら心配はいらないかもしれない。

 と言うか、もう電話番号交換してたのか。


プルルルプルルルル...


「あ、モシモシ唯一クン?ちょっとこっちに来てほしいんだけど......今コントロールルーム!......え?うーん、それは無いかも〜。ちょっと聞いてみるね?宇界クーン!」


「なんでィ」


「地図とかある?この部屋までのー」


「企業秘密だ。んー、だが、まぁ良いだろ。あいつ口は硬そうだし。あ、それよりも電話で千寿が道教えてやったほうが早いんじゃないか?」


 データの入ったチップを渡そうとして、千寿の記憶力の良さを思い出し、問う。


「あ!そーかも。え〜っと、モシモシ唯一クン?ごめんね、待たせちゃって。うん。私がナビになるから、今何処にいるか教えてー?あ、そこにいるの?じゃあすっごく簡単だよ!まずはそこの廊下をまっすぐ行って―――」


 僕はさっさと作業に戻る。後もう少しで地に(船の)足がつく。

 唯一はまだか?早く来てくれないと折角のショーが台無しになってしまうじゃないか。


コンコンコン!


「来たか。入れ」


 後少しでも遅かったらショーは諦めていたと思う。


「う、うわぁ......SFの船みたいだね...」


「感動やら感想は後で聞いてやるから、そこのマイクでこれ、アナウンスしといてくれ」


 僕はそう言って一枚のメモを渡す。要は校内放送的な事をしてもらう。

 言っている内容はバスガイドのようなもんだがな。


『皆さん、はじめまして。Utube にて動画配信しております、【ファミリア】のユイです。今日はキャプテンの依頼により、この船の着陸ショーのアナウンスをさせていただきます。今、我々は―――』


 僕は唯一のアナウンスに合わせて船をおろす。


「さぁ!クライマックスの着陸数秒前です!9!8!7!6!5!4!3...2...!」


着地......

 一気に肩の力が抜ける。緊張しすぎてヘロヘロだ。

 だが、この小さな衛星で練習しておかないと、他の星、たとえば惑星なんかに降りる時に失敗なんかしたらアウトだからな。

 ここで練習できてよかった。


「「「わぁっ!」」」


 一気に盛り上がる。このコントロールルームの外がどうなっているかは知らないが(防音処置が行われている)、我々機械班は大いに盛り上がった。


「感激だ!感激だよ!」

「まさか、無事着陸できるなんてぇ‥...!」

「『魔の7分』を乗り越えたぞ!」

「一生忘れない!絶対この瞬間は死ぬまで脳に焼き付けておく!」

「俺は墓まで持っていくぞ!」

「じゃあ私は土まで!」


 来世と言わないのがなんとも科学者らしい。

 人は死んだら土に帰るだけだからな。魂のことは知らんが。





 さーて、降りるか。着陸困難って言われたエウロパで遊び回ってやる!

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