第10話

 あれからずっと部屋で引き篭もっている。正直、ロボット作りくらいしかやることがなくてかなり暇なのだが、あの王道に追いかけ回されるよりはマシだ。


 もう、いっそ引きこもりの陰キャに転職しようかなー、なんてな。って、自分が陰キャか陽キャか知らないのだが。


コン コンコンコンコン コンコン.....


 このフザケたノックの仕方は...


「千寿か。」


「えっへへー、ピンポーン!あったり〜!」


 千寿がドアを勢いよく開けながら入ってくる。


「で、外の様子は......?」


 この中にいるとどっかのスパイにでもなった気分になる。まぁ、情報は全然入ってこないけど。


「相変わらず王道クンが宇界クンのことを探し回ってるよー。あ、後さ、一人、宇界クンに会いたいって人がいたよー?」


 僕に会いたい?どうせろくな奴じゃないだろ。僕が新世家の坊っちゃんだと知って会いたがってくるやつなんか金目当ての面倒くせーやつか、普通に僕と話してみたいっつー並外れて面倒くせーやつしかいない。


 そして、ここは宇宙船。金なんて機能していない。ならば、当然後者だろう。


 まぁ、一応そいつの名前くらいは聞いておこう。名前を覚えておけば避けることができるからな。科学に関係なければ面倒事からは逃げる!それが僕のモットーだ!


「んで、そいつの名前は?」


「えっとー、ウラミヤ?だったかな。なんか宇界クンと知り合いらしいけど...?」


 うらみや.....?って、浦宮か!懐かしい名前が出たものだ。こいつは全然面倒なやつじゃないから個人的にはかなり気に入っている。

 僕の話にも付いてこれる数少ない人間の一人だしな。


「確認するが、そいつ、浦宮御影って名乗っていたか?」


「あー!それそれ!恨己屋未陰クン!」


「ハハッ、それ、絶対に漢字が違うだろ。」


「えーーー?そうー?」


「で?浦宮は何処に?」


「えっとねー、わかなんない。一応さ、宇界クン何処にいるか知らないって答えておいたからさ、それ聞いてどっか行っちゃった。ごめんね?」


 あー、あいつらしい。用がなくなったらフラ〜ッとどっかに行っちゃうもんな。


「いんや、大丈夫だ。むしろ、浦宮じゃなかったらそうしてくれて正解だ。」


「それって浦宮クンにそう答えたのが間違いみたいじゃん。」


「実際そうだ。」


 千寿はプクーっと拗ねたように頬を膨らませる。


「あ、じゃあさ、みんなに探して来てもらおうよ!」


「...『みんな』?」


「そう!みんな!勲クンとー、黄昏クンとー、後は唯一クン!」


 メンバー大集合じゃないか。


 と言っても、僕、千寿も合わせて5人だけだからかなり少ないのだが。


 唯一も、つい先日知り合ったばかりなのに仲間にされてるなんてなかなかやるな...なんかUtuberの性質かなにかか?


 「千寿さ、黄昏と勲はどんなにこき使ってもいいけどよ、唯一だけは勘弁してやれよ?」


「嫌だな〜、こき使ってなんか無いよ!私のお手伝いさせてあげてるだーけ!!」


「ハッ.....いい性格してるよ、ホント。」


「そんな細長悪人的吊り目の宇界クンにだけは言われたくないな!じゃ、行ってっきまーす!」


「悪人的って......、まぁいいや。いってらー」


 さて、千寿達を待っている間に少し僕の話をするとしよう。


 僕は『新世家』という、大企業を代々経営してきた大富豪の家に長男として生まれた。


 父の名前は新世 冷夜わかせ れいや。歳は30後半だった筈。


 小さい頃に母を亡くし、元々父とはあまり仲が良いわけでもなかったので、気がつくと口を利くこともなくなっていた。


 我が家が代々経営してきた企業は機械全般を取り扱ってはいるが、曽祖父の代から宇宙探査機などの、宇宙関係の物を取り扱うようになっていた。


 我が家は経営だけでなく、自ら設計等をすることから絶対の品質保証をしていた。それだけに『新世家』の信頼は大きいのだろう。


 確かに、腕は凄いからな。曽祖父には会ったことがないが、祖父、父はどちらも天才だった。


 だからと言うのは何だが、僕も常人よりは優れていると自負している。


 僕が天才か、と聞かれたら答えかねるが。


 確かに、皆が幼稚園に行っている頃には家で大人のやるようなプラモ作っていたりはしたけども。


 確かに、小学校の頃は授業サボりまくって校庭で色々ロケットやら何やら作ってはいたけども。


 確かに!中学の頃は理科の先生に弟子入される勢いだったけども。


 僕は至って高校生だと思う。


 うん、ε-δイプシロンデルタ論法とかハーディ・ワインベルグの法則やら悪魔の階段やら知っているが、皆も勉強すれば解るはずだ。


 うん、そうに違いない。


 というか、何だか黄昏が気に入りそうな響きのものしか無いな。


 そろそろ本題に戻りたいと思う。僕は、小学校はほぼ毎日サボっていた(出席日数は毎年ギリギリ)が、ちゃんと休み時間は全力で参加した遊んだ


 故に、何故か友達は多かった。殆どが上辺だけだから...まぁ、一番何かと仲が良いのがあの3人、千寿、勲、黄昏だな。

 いや、黄昏は微妙だが。



 さて、あれから20分は経つのだが、戻ってくる気配はなさそうなので、今度は少し僕の友だちの話をしよう。


 まずは常時ハイテンションな千寿サマ。


 彼女の名前は歓喜千寿かんき ちとせ、小2からの友達だ。ロケットの模型見せてからアヒルの子のようについてくるようになった。

 

 流石に今はそうではないが、前は本当に鬱陶しい程に何処にでもついてきた。


 男子トイレに入ってきそうになった時は窓から放り出したが。


 それをキャッチしたのが黄昏だ。


 確か、最初の一言が.........「こんなに可愛い女の子を投げるとは何事か!おい、お前!この子に謝れ!」で、素直に謝ったら、「本当は良いやつじゃないか!よし!俺の友になることを許可しよう!」だったな。


 あれは......初対面からかなり引いたのを覚えている。



 そんで、最後が一番馴染みやすい(だろう)波動はどう いさむだ。


 とにかく声がでかい。それで応援団長に推薦されたらしいしな。


 勲は根っから良い奴だから、あいつが嫌いって人間に会ったことがない。

 

 まぁ、授業中居眠りしているのは問題だと思うが、サボっていた僕が言う事ではないか。


 あいつとは幼稚園からの付き合いだ。僕が威張り散らして、アイツが素直に色々聞くから自然とよく行動をともにするようになっていった。


 今では威張り散らしたりなんてしないがな。今は普通に良き友だ。


 今考えるとアイツは人助けが好き、というか、考える前に体が動くタイプで困っている人を見過ごせない奴だから、人助け感覚で僕の我侭に付き合ってくれていたのかもしれない。


 本当に、良いやつだよ。黄昏ほど面倒くさくないしな。声が大きすぎるのは本当に、深刻な問題だが。


ココン、ココン、ココココンッ!


「...入れ」


「みっつけて来たよーー!」


「俺の千里眼をもってすればどんなスパイのようなやつでも一瞬で見つかるのだ!ハァッハッハッハ!」

 

「ん?この部屋少し暗くないか?」


「......」


 古参の3人が唯一に凄い目で見られている。何か人ではないナニカを見ているような感じの目だ。皆マイペース過ぎる。自由人だな。うん、これこそまさに真の自由人。


 騒がしくワイワイ入ってきた千寿達の後ろから、スッと人影が現れる。


 僕は思わず、口角をニヤリとあげてしまう。


「よぉ、久しぶりだな、御影。」


「相変わらず偉そうにふんぞり返ってますね。阿呆じゃないですか」

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