第2話 

―――――地球は、人が住めるような環境ではなくなった。林で虫取りなどおとぎ話の次元の事になっていた。地球は、人類70億人を支えるなんて到底無理な程に汚染されてしまっていた。

 

 人々は地球温暖化を上手く止めることが出来ず、北極の氷は溶け、海の水位は上がり多くの街や島は沈み、多くの生き物たちが命を奪われた。それがすべての始まりだった。

 

 食料の栽培もあまりの暑さに満足に確保することが出来ず、常に40℃を超えるという気候が当たり前になってしまっていた。平均気温が、予測されていた4.8℃ではなく、5℃以上も上がってしまっていたのだ。

 

 これだけの微かな違いでも、自然には大きな影響を与える。餓死する人々は増え、その上マラリア等の熱帯の病気が拡大・進行し、暑さに負け、農作物等が育たなくなってしまった。

 

 そして、いくら頑張っても人間の力で地球をもとの状態に戻すのは不可能で、現状を悪化させてしまう可能性があるだけだと判断された。


 そこで出たのがまだ『時間』の、『未来』のある若者達を宇宙へ送り出し、新しい第二の地球を探しそこで命をつないで行くという案だ。


 だがその作戦は失敗し、若者達は皆死んでしまう可能性が高い。が、地球に残っても死ぬのは変わりがない。苦肉の策だが、大人たちはそうせざるを得なかった。


 彼らは持ちうる全ての科学技術を投入し、一つの大きな宇宙船を作った。

 

 アメリカのNASAに、日本のJAXA、その他の国々も協力して。


 全世界が一丸となって作り上げた、最高傑作と言っても過言ではない、最大の宇宙船にして、NASAの最速と言われた時速343112.141キロメートルの太陽探査機「パーカー・ソーラー・プローブ」―――詳しくはググってくれ―――をも上回る速度のものを、だ。



「あ、そろそろ時間っぽいよ!宇宙って本当にきれいなのかな?」


「それは個人によるだろ。キレイ、キレイじゃないの感想は。」


「そう、だねー。」



 千寿はすこし落ち込んだように答える。


「それに、スペース・デブリが多いからな。個人的には『宇宙』は綺麗だが、『地球』はゴミの塊だな。」


「え、すぺーす、でびる?」


「デブリ、だ。なんで悪魔なんだよ。イヤホン外せ。昔の人間がバンバン探査機やらロケットやら打ち上げてよ、その要らなくなったゴミが地球の周りを浮いてんだ。偶に落ちてきたりもしてるだろ。ほら、前校舎裏に落ちてきたやつとかそうだ。」


「え!?そーなの!?じゃあこんな大きな船なんて当たりまくりじゃん!」


「それが当たらないようにわざわざ僕の父さんの会社が頑張ってんだろ。」


「あー!あの一ヶ月前くらいに打ち上げたやつ?あれって何するの?」


「決まってんだろ。『お掃除』だ。」


 宇界はニヤリと笑う。


「お、そう、じ?」


「あぁ。昔の人の遺したゴミクズを全て片付けてやるんだ。」


「すごーい!やっぱり宇界クンのお父さんは凄いですなー!」


「あぁ。性格は置いておいて、頭脳だけは特級品だ。」


「アハハハッ!なにそれ、特級品って、アハハッ!」



 何処が面白いのか、宇界には理解が出来なかったが、人間、泣いている人を見ると自分も泣きたくなるように、笑っている人を見るとつられて笑ってしまうもので、気が付くと彼も一緒に笑っていた。



「ねえねえ、第二の地球って、緑の草とか生えているのかな?」


「無かったら植えてやるよ。種だけは僕の家でずっと保管されている。」


「!!うん!色々とお願いしますね、『キャプテン』」



 その少女はニコリと笑うと勲の所へ走っていった。



「キャプテン、ねぇ......」



(めんどくせぇ)

 と、いうのが少年の本心であった。

 そう。彼は、科学者のくせに根気のない、『究極の面倒くさがり』なのである。


 彼は果たして、無事面倒事から逃れることができるのだろうか?

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