2-7
「間に合ったな。」
あっぶね〜。間一髪だったな。
今現在、金属バットが眉間のほんの数センチの所で静止している。
白刃取りのような構えで難を逃れたのだが、相手も相当な力を込めているのか少しでも力を抜けばバットは俺の脳天にめり込んでしまいそう。まさに膠着状態。持っていた買い物袋が慣性で何度も金属バットに触れ、規則的に小気味良い音を鳴らしている。
「公一、なんでここに…。」
俺の真後ろ。もうほとんど密着しそうな距離から、驚いていて、そしてか細い声が聞こえてくる。
「細かい事は気にすんな。それに今はそれどころじゃない。」
本当にそれどころじゃない。格好をつけたは良いがもう腕が限界…、
「退け!クソ眼鏡!そこの化け物はここで潰す‼︎」
そいつが発した単語を耳にした瞬間、眉間に皺が寄る。
「あぁん!テメェもういっぺん言ってみろ!」
気が付いたら自分でも驚くほどの声量で吼えていた。
「クソ眼鏡!」
「そっちじゃねえ!」
踏ん張っていた足と腕に自然と力が入り
目の前のバットが小さくなり野郎の面が目に写る。
「てめぇの目は節穴か!何が化け物だ!どっからどう見てもただの女の子じゃねえか!」
その顔面に向け足元に転がっていたコンクリートの破片を蹴り上げた。
「だぁ!」
一瞬の怯んだ隙を狙い、再び頭部へ後ろ回し蹴りで狙いを定める。
「拓さん危ない!」
が、標的を押し退け突如現れた坊主頭にヒット。蹴られた勢いのまま地面に倒れ込み動かなくなった。
「おい…、嘘だろ…。」
突き飛ばされ間抜けな格好をしていた拓さんと呼ばれる金髪の男は坊主に駆け寄り介抱する様な形をとった。
「おい!大丈夫か!返事をしろ野田!」
「良かった…。拓さん無事の様で…。いつも拓さんにはたくさん世話になっているから…。俺には、こんな事しか…。あっ、拓さんとたくさん、ここ笑うところですよ…。」
「もう良い。喋るな野田…。本当にありがとな。後は俺に任せとけ。お前の犠牲無駄にしないぞ。」
「拓さん…。あり、がっ、と…う。」
拓さんに向けられていた右手がゆらりと地面に落ちた。
「野田!野田ぁ!くそっ…、てめえ、ぜってぇ許さねぇ!」
男はゆっくりと坊主を床に降ろし、こちらに向かって怒号をあげながら突っ込んでくる。
「うおぉぉぉぉぉ!」
距離が縮まる前に地面に転がっているコンクリガラを拾い、そして片方の瞳を閉じ、男の方向に向け投げる。
それを男は身を翻して躱した。
「どこ狙ってやがる!このノーコン野郎。目を閉じたまま投げて当たるとでも思ってるのか?」
「ああ。残念だがコントロールに自信があってね。避けてくれて助かったよ。」
「何をいって…。」
次の瞬間
カン!っといった軽い音と同時に場内の照明が落ち、窓の無いこの倉庫には暗闇の世界が訪れる。
「何だ!何が起きた!お前何をした。」
さあ、ここからは俺のターンだ。
ヒーロースクランブル あらかわ @arakawa045621
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