2-6.5
「あいよ」
公一の後ろ姿が店内の入り口に消えていくのを見送り、そのまま背もたれにもたれかかり、茜色の空を見上げる。
「はぁ…。」
自然の流れのように溜息がでてしまった。
確かに公一は良い人だ。友達という理由で助けてくれたというのも納得がいく。
だけど何かあの時の公一には少し違和感を感じた。言葉じゃなくて、何て言うんだろう…、雰囲気?とかかな。
「分かんないなぁ。」
まだ私には他人を理解すると言うことは難しいのかもしれない。
私は何で前と同じことを聞いてしまったのだろうか。
多分、きっと、おそらく、本人の口から再び聞きたかったのだろう。
同じ言葉を。
安心したかったのだろう。
決して私の自意識過剰じゃないと言うことを。独りよがりなんかじゃ無いと。
我ながらなんと女々しい。まあ女だけど
「はぁ…。」
再び深いため息を着く。
「お姉ちゃん溜息なんてついてどうしたの?」
ボーッとしていたから気付かなかったのかも知れないが突然私の前に2人組の男達が立っていた。
「いぇ、何でもないです。」
「そっか。と言うか今から時間ある?ちょっと俺らと来てくれないかな。」
チャラついた男2人は共に合掌し頭を下げてくる。
「すみません。私、人を待っているので。」
「そこをなんとか!人を助けると思って!」
「えっ?誰か困ってるんですか?」
「あー、えっと。そう、そう。俺たちすっごい困ってるのだからちょっと助けて下さい。」
ー
「ここだよ。」
男達に案内され着いたところは、ショッピングモールから少し離れた海沿いの倉庫。
扉を開かれ中へ入る様に促される。
言われるがままに足を踏み入れると複数の男性がたむろしていた。
「遅ぇぞ!いくら待たせんだよこのクズ!」
「すんません!」
その中でもやたら威圧感のある金髪のドレッドヘアーの男が怒号をあげ、それに反射する様な私の周りの2人の声。
おそらくあの男の人はこの人たちの先輩か何かなのだろう。
周囲を見渡すと私より年上と思われるガラの悪い感じの男が10人程度。
だが見た感じ私がここに来た理由とは噛み合わない。
「あの。困ってるって言われたから来たんですが…。」
各々雑誌を読んだり、携帯電話をいじったり。バスケットボールで遊んだりと誰一人困ってる人は見受けられない。
金髪ドレッドの男が口を開く、
「あぁ、それなら非常に困ってるなぁ。本当に困ってる。退屈すぎてなぁ!なぁ姉ちゃん、俺らと遊んでくれよ!」
なんだ、そんな事だったのか。
「それは私にはどうしようもないかな。ごめんだけど帰らしてもらいます。」
「そう言うなよ。お前ら!」
先程の2人は私の後ろに回り込み退路を封じ、他の人たちも集まってきて私の周りを囲いだした。
「それにあんな根暗そうなクソメガネ野郎なんかより俺らと遊んだ方がよっぽど楽しいぞ。」
その言葉に一瞬足先からお腹のあたりまでスッと冷えた様な刺激が走った。
聞き間違いであってほしい言葉が聞こえた気がした。自然と眉間にシワが寄ってしまう。
「今なんて…。」
「ふっ、聞こえなかったのか。ブサイククソメガネもやし根暗野郎とい「黙れ!」
大きな鈍音と私の声が倉庫内に響いた後、周囲が静寂に包まれる。私のあげた怒号のせいなのかそれとも、言葉と同時に出てしまった私の右手のせいだろうか。
「ばっば、化け物!」
まあその捉え方も間違ってはいないと思う。
何せコンクリートの柱を拳でへし折ったのだから。
私の周辺には砕け散ったコンクリートがらと柱の側面から飛び出した歪な形の鉄筋が確認できる。
「公一を…、私の恩人を馬鹿にするな!」
思考が停止した。彼の言葉に、公一を馬鹿にしたあの男に、許せない。許せない。許せない。頭を巡る初めての感情と身体の中から湧き上がってくる懐かしい感覚に身を任せ、
私は右足で思いっきり地団駄を踏んでしまう。
再び鈍い音が倉庫内に響く、足元には窪みとひび割れ、隆起したコンクリート、
目の前には顔が青ざめた男たち。
「なっ、何なんだよお前…。」
さっきの金髪の男が膝を震わせながら、たどたどしい口調と一緒に立ち上がる。
「テメェ!俺の仲間達には指一本触れさせねえぞ!」
「「「拓さん!!」」」
先程の怯えていた表情は消え失せ、確かな敵意を込めた眼差しをこっちに向けてくる。床に転がっていた金属バットを手に取り、背後の仲間達に向かって
「大丈夫だ。お前らは俺が守ってやる。」
「「「拓さん!!」」」
こちらに向きかえり、バットを振りかぶりながら凄い勢いでつっこんでくる。
「死ねええええぇ!この化け物!」
いいよ。その攻撃、真正面から受け止めようか。
私との間合い残り1メートル位のところで飛びながらバットを振り下ろす。
「はああああぁ!喰らいやがれ!」
カーンという小気味良い音が響き渡り、私の視界は暗くなった。
「間に合ったな。」
と聞き覚えのある声と共に、
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