第3話 再び作戦会議
「なんでそんなに嫌がるんでしょうか…?」
「いや、僕にも分からないよ。想像もつかない」
こうなってくると、本当に謎だ。何しろ僕たち二人で迫ったら、逃げたのである。あの、天使の包容力を持つ九王沢さんが。やはりここから先は、触れてはいけない、トップシークレットのようだった。
しかし人間、だめだ、と言われると、余計気になるのである。
九王沢さんほどの完璧超人の弱点が、自宅。いや自宅ってなに。逆に人間、どんな自宅に住んでいれば、それが弱点になりえるのか。ちょっとよく分からない。
「例えば猛烈なゴミ屋敷とか…」
まさかの片づけられない女か。いやでも、そんなことはない。九王沢さんの甲斐甲斐しさは、今や確固とした定評である。
僕だって依田ちゃんだって目の当たりにしている。そもそもこれだけ忙しい中、九王沢さんは週に二、三度は僕の部屋を必ず掃除に来てくれるほか、僕たちの文芸部の部室の手入れも欠かさない。
恐らくは実家に帰れば、それ専門のメイドがずらりと仕えているはずの九王沢さんだが、手際も気の付き方も一流ホテルの客室係並みなのである。
「いやそれはあり得ないでしょう。普段の感じからしてもさあ」
恋人として僕は、たぶん誰よりも長い時間、九王沢さんといる。だから断言させてもらうが、九王沢さんのだらしないところなんか一点でも見たことはない。
「てゆうか先輩、九王沢さんに部屋掃除させてるんですか、感じ悪いなあ」
「い、いや!それは頼んだわけじゃないと言うか…常々、申し訳ないと思ってるよ。僕がだらしないせいで」
「先輩がだらしないのは、あたしもよく分かってますよ。…でも、親友のあたしの目から見ても、その線はなさそうですね」
依田ちゃんのうちにも、九王沢さんは何度もお泊りしている。マナーはもう、このままお嫁さんにしたいくらい完璧だそうだ。
どころか依田ちゃんが目覚める前に炊事、洗濯、ゴミ出し、その他の家事も抜かりなく仕上げてから引き上げると言う。ハウスキーパーか。
「なんだよ。依田ちゃんだって九王沢さんを便利使いしてるじゃないか」
「あ、あたしだってうちに泊めるお客さんにそんなアコギな要求しないですよう!なんて言うか、九王沢さんてめっちゃそつないんですよね…止める間がないって言うか」
すごくそれよく分かる。うちでも気が付くと、洗濯物まで洗ってくれているので、申し訳ないやら不甲斐ないやら。
「ゴミ屋敷は考えられないですね。あとは…規則がめっちゃ厳しい寮に住んでいるとか」
「ああ、そうだね…」
九王沢さんはもう、絶滅危惧種級のお嬢様なのでむしろそっちはあり得る仮説である。本人は否定するが、元・特殊部隊ぽいSPロジャーさんはじめ、最高のセキュリティに守られている超絶箱入り娘なのだ。
「うーんでも、九王沢さんその割には自由そうだよね?」
門限があるとか、厳しい行動規則があるなんて話は、聞いたことがない。さっきお泊りの話が出たように、外泊はかなり頻繁だ。むしろだからこそ、外出時にスペシャルなセキュリティがついている、とも言える。
「そう言えばあたしたち、九王沢さんのプライベートってほとんど知らないですね…」
ふと、と依田ちゃんが首をかしげる。それは…考えてみると、ぐうの音も出ないほどにその通りである。
僕たちは普段、九王沢さんが自宅に帰って何をして過ごしているのかも、まったく知らない。
そう言えば九王沢さんにとって、彼氏である僕の家や親友である依田ちゃんのとこへ泊りに行くのすら、外出の範囲内なのである。人間て人目につかない場所でどう過ごしてるかが、本当のプライベートなのだ。
でもあの九王沢さんが、僕たちみたいにコンビニスイーツ食べながらごろ寝してマンガ読んだり、スマホの動画やらテレビの映画やら観ててお風呂入らないで寝ちゃったりしているようには思えない。実態が想像がつかないのだ。
「気になるね」
「気になりますね…」
僕たちは顔を見合わせた。となると、最後の手段はただ一つである。
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