第3話 何してくれてんだぁ!

「『タクマ』って男優のAVか?よく見つけたな」

「ばかか、ここでそんな事言うなよ」


 まだ太陽の登りきらない8時。練習は30分後からだが、来ている生徒はちらほら見える。


 俺達は用意をしつつ話をしているところだ。


「しっかし、お前もよくそんなめんどくせー事するよな?わざわざクールキャラなんて」

「お前には分からないだろうな。このおかげで手に入れたモテをどれだけ求めたか」

「あーはいはい分からないっすよ〜」


 まったく。響は俺のキャラ作りを知っているのだが、ここは他の人のいる場所だ。それに俺がクールである以上、感情を出しては怒りづらい。


 すると、一人の女子生徒が近づいて来た。

 学校指定の青いジャージを着たマネージャーだ。

 こいつも俺がクールキャラを作ってることを知ってる数少ない人だ。

 数少ないと言ってもこの2人くらいですけどね。友達って呼べる人いないし・・・・・・。


「ほらあんた達、駄弁ってないでメニュー教えろや!」


やってきたのは秋元風花。ショートカットの可愛いやつだ。ちなみに胸は小さい。とても。

 こいつも2年生な事も、俺の性格を知っている事もあるが、なかなか俺にハートの入った目は見せない。

 イケメン2人を前にも緊張は見られない。


「あぁ、この紙に書いてあるから」

 響がメニューの書かれた紙を渡すと、秋元はほんの少しだけ顔を赤くして走っていった。


「はぁ、なんで響はそうもモテるんだ?」

「ばーか。拓真を見るやつはみんな目をハートにしてるぜ?」

「俺は近寄り難くなられてんだよ・・・・・・これならクールになるべきじゃ無かった」

「はいはい。ほら、そろそろ練習するぞっ、と」


 拓真は響を追ってグラウンドへ駆けていく。

 ・・・・・・クロのことは話さないことにした。


 〜〜〜


「あぁー!疲れたぁー!!」

 響が叫んだのは部活終了の6時半。

「お疲れ様」

「おう拓真、おつかれ!」

「あのっ、タオル使ってください!」

「ありがとうな」

「ありがと」

「はいぃ!」


 二人が一年生のマネージャーを蕩けさせるのは毎度の恒例行事と化している。

 てってく走っていった女子は顔を赤らめ友達の女子に話す。するとその子がいじられる。

 ここの光景は何度見ただろうか。


「さて、この後は飯だろ?」

「そのつもりだな」

「んじゃ行くか!」


 いつものノリで響と食堂へ向かう。

 俺達を眺める女子の視線は数えきれない・・・・・・。やったね!


 〜〜〜


 食堂で頼むメニューも最早決め打ちされている。

 のだが、列に並んだ時ふと、響がこんなことを言った。


「今日はほんとあちぃなー。冷たいもんでも食うか!

 あ、関係無いんだけどさ、猫って季節で食べ物違うの?」


 こいつは俺が猫を飼っている事を知っているからこその一言。

しかし、この時俺の頭には数々の事が浮かんだ。

 クロって人になったんだよな?


 しかし、響も止まらない!追い討ちをかけるように言葉を浴びせる。


「お前の猫はどうしてんだ?一日暑かったけど、対策してんだろ」


 ・・・・・・している。とは今のクロにとても言えない。


「し、してるぞ。冷却マットとか。窓は開けて網戸だし、扇風機かけてある」


 猫用の冷却マット。猫用の小さめ扇風機。


 思い返すとどんどん不安は大きくなってくる。


 トイレは?今のクロに猫用のトイレで小ならまだしも大をされたらどうしようか。


 ご飯は?まさかキャットフードだけで大丈夫なのか?


 勝手に外には出ないだろうが、今は何をしているのだろう。


 キャットタワー?人間が?


「わりぃ響。俺部屋戻るわ」

「おい拓真!?」


 俺は食堂を抜けると敷地内のコンビニへと走った。


 コンビニで買ったのはおにぎりやお弁当。お菓子も買っておいた。


 後はオセロやトランプも買った。

 ・・・・・・本当はオムツも買っておきたかったのだが、流石に高校併設のコンビニはに売ってなかった。


 おにぎりはクロの好みは分からないので色々買ってみたが、口に合うだろうか?


 コンビニを出ると寮まで全速前進。

 途中すれ違った人がなにか言ってた気もするが・・・・・・そんなものは無視だ!


 エレベーターに素早く乗り込み、素早くドアを閉めて上がる。


 部屋についた。入るやいなや叫んだ。


「クロ!!」


 靴を脱ぎ捨て一気に入る。


 クロは・・・・・・いた!

 俺のベッドで寝ていた。

 可愛らしくむにゃむにゃと寝息をたてている


 無事を確認すれば素早くチェック。

 トイレは・・・・・・以上無し。

 食べ物は・・・・・・エサが少し減っている。やはり食べたのだろうか?


 とりあえず少し心配なので優しくクロを起こした。


「クロ、起きろ。飯にするぞ」


「んにゃー、たくまぁ。だいすきぃ」

「く、クロ!?寝ぼけてんのか?起きろ!」


 ここでクロを軽く揺すった事が大きいか、クロが目を覚ました。

 が、一気に涙を浮かべて叫ぶ。


「たくまぁぁ!おかえりぃ!さみしかっだよぉぉ」


 一層強く抱き締めるクロ。

 柔らかいものが当たってあまり苦しくは無いのだが、


「クロ?いつもそんな事思ってたのか?」

「うん。くろ、たくま大好きだから」

「クロォ!」

「たくまぁ!」

「「うわぁぁん!」」


 泣いた。クロは純粋に喜びで泣いていただろう。

 俺は、飼い猫が自分を好きでいてくれたことが嬉しすぎて泣いた。


 少し経って泣き止んだから、話を始める。


「なぁクロ。クロは人の体になったからさ、いくつか覚えてもらいたいんだ」

「うん、分かった!」

「よし、じゃあご飯からかな?」


 そう言ってコンビニの袋からおにぎりを出す。

 クロの健康も気遣ってたまには自炊もいいのだが、基本的にはコンビニになりそうだからだ。


「まずな、ここを引いて──って誰か来た!?」


 ちょうどこの時、玄関の向こうから声がした。


「おぉーい、拓真?大丈夫か?」


 まずいまずいまずい。

 クロのことはどう説明しようか。

 この状況をなんというか・・・・・・。

 だって、クロが怯えて抱きついてきてるのだから!


「おーい拓真?って鍵空いてるじゃん・・・・・・入るぞー?」

「だあぁぁ!入っちゃだめだ!」

「なんだ拓真、いるじゃねぇか。全く無視しや、がっ、て?」


 終わった。

 苦笑いで入ってきた響の表情が険しくなっていく。

 原因は間違いないなく俺とクロ。


 自分の事を置いて部屋に帰ったと思ったら女子に抱きつかれているではないか。


 相手が飼い猫かどうかなんて響には知る由もない。


 だから、響は叫んだ。


「何してくれてんだぁ!」

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にゃんて日だ!? 柏木絢 @mizusan_0118

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