夏休み1
夏休みが始まった。優衣と恋人同士になった初めての夏。
その最初の週は夏休みの課題を出来るだけ消化しながら、短期バイトに精を出した。
高校生が出来るバイトはある程度決まっているが、常日頃から身体も鍛えているので、何とかやりきることが出来た。
優衣はファミレスでアルバイトを始めたようだ。
制服とかの関係で、胸とか大丈夫か? と思ったが穏当なデザインのチェーン店で、どうやら親戚の女性からお願いされたらしい。
送られてきた制服姿を見る限り、優衣の爆乳はあまり目立たなかったのでホッとした。
朝から肉体労働のバイト夕方に帰ってきて、課題を出来るだけ消化。正直結構大変だ。
ま、引っ越しや工場のバイトよりはマシか。
やっている他校の友人からは、死ぬとメッセージが来てるし。
そんなこんなで短期バイトの期間の契約期間が終わったので次は日雇いだ。
出張中の父親にお願いして紹介してもらった農家の野菜収穫だ。
肉体労働に比べて安いが、それでも結構稼げた。
これなら、夏休みに優衣と出かけるのは問題ないだろう。
優衣も俺もデートで外に出かけるタイプではないからな。
日雇いは夕方に終わる。今日は久しぶりに優衣と会える日だ。
俺はウキウキ気分で優衣を家で待つことにした。
メッセージや声だけは聴いていたけれど、久しぶりに会うのはやはり違う。
俺は色々と優衣を向かい入れる準備、お茶や菓子を用意して、待っていると家のチャイムがなった。
短い時間だが、優衣と二人きりだ。
☆
白いワンピースを着て優衣が俺の家にやってきた。
両手には手さげカバンを持っている。
清楚な感じがして、可愛い。
「久しぶり、睦月さん」
「うん、久しぶり。似合っているよ」
「ありがとう」
玄関を開けて、お互いに笑みが浮かんでしまう。俺が「上がって」というと優衣が家のドアを閉めた。
エロ漫画とかなら、即座にエロいことをするのかもしれないけれど。
「……」
「……」
じっとこちらを見てくる優衣。お互いに数秒見つめ合ってしまったのだが、優衣が恥ずかしそうに両手を広げて俺を待ったので、俺は優衣を強く抱きしめた。
「あー、えっとそういう意味?」
「う、ううん、ごめんなさい。そういう意味じゃないの。時間もあまりないし」
「そう、だな。残念だけど。抱きしめるだけ」
「ごめんね」
「いや、驚いただけだ」
てっきり短い時間で慌ただしく、そういうことをしないといけないのかと思ったよ。
いや、優衣が望んでくれるならば、俺はいくらでもするけれどね!
このまま俺の部屋に行くと、ちょっとヤバそうなので、当初の予定通り優衣をキッチン兼リビングに案内する。
で、そこで何をするかと言うと。
「睦月さん、包丁使うの上手だね」
「いや、包丁でジャガイモをスラスラと切れるのはすごいと思うぞ。俺は皮むきはピーラーじゃないと」
「料理人じゃないから、楽な方法でいいと思うよ?」
料理である。ちょっと早いが夕飯を二人で食べる。そういう話になった。
本当はずっとソファで二人並んでイチャイチャしたいのだが、学校ではないのでそのまま初体験へGO! してしまうとアレなので、昨日の夜に何がやりたいか話し合ったわけだ。
今作っているのはカレーだ。
お互いに自炊はしたことがある。その上で失敗しにくいモノを選んだわけだが。
「ところで、優衣」
「なに?」
「その、確かに料理する時に汚れると思うから、着替えるは分かるんだけれど」
「うん」
俺は改めて、優衣の今の姿を見る。家に来た時のワンピースは着ていない。
今優衣が着ているのは学校の競泳用水着にエプロンだった。
優衣はデカ尻ではないが、形の良い尻をしている。
俺が隣を見るとその良い尻が俺の視界にチラチラと入るので、かなり目に毒。
更に、優衣が持ってきたクリーム色のエプロンは少年から見ると裸エプロンのようだった。
「えっと、遠回しに誘われている?」
「誘ってない、サービス」
「なんの?」
「まだ、その怖いから。ごめんねって」
「むしろ、襲ってしまいそうになるんだけれど?」
「我慢して」
おふぅっ! 結構忍耐力が必要だなこれは。
そんなことを考えながら、カレーを作り続けていると優衣がポツリと呟いた。
「相葉さん」
「ん」
「相葉さんって、睦月さんは好み?」
「まあ、そうだな。好みかと言われれば好みの方だな」
俺の言葉に優衣がクスッと笑う。え、今の可愛い! もう一回やって!!
「素直に言ってくれるところ、好きです」
「そうか」
「告白のようなことをされたと言ってたけど、その」
「クラスメイト達に積極的に言う必要はない。けど、まあ、またアプローチされたら、その時は俺と優衣が付き合っているって教えた方がいいかもな」
「また、アプローチされる自信が?」
「いやいや、そういう自信はじゃない」
優衣も不安なのかもしれない。なら彼氏として優衣の不安を取り除く方法は。
「なあ、優衣」
「なんですか?」
俺に声を掛けられて、キョトンとする優衣。
そんな俺は二つの優衣に提案した。
「耳元で囁くように優衣が好きだ。って言い続けるのと。舌を絡ませるキスを一分ほどすのどちらが良い?」
「いきなり何を言っているのですか?」
ジト目で俺を見つめてくる優衣。俺は素直に自分の気持ちを伝えた。
「確かに、七海は俺好みの性格と身体を持っているけれど、それだけで人を好きになるわけじゃないよ」
「うん」
「優衣、君が好きだ」
俺がそう改めて伝えると、優衣は包丁をまな板の上に置いて、少し屈んでくれと手招きした。
俺は優衣が何をしたいのか分かったので、俺はピーラーをまな板の上に置いて、身体を優衣の方向に向けて屈む。
「目を」
「ああ」
俺は優衣の言葉に従い目を閉じる。
リップ音はない。けれど五秒ほどの長めのキスを優衣が俺の唇にしてくれる。
「睦月さんは変態だけど、私も好きです」
「ありがとう」
それから、普通に何事もなくカレーを作って、食べた。
料も加減していたので、食べきることが出来た。
うん、たまにはこういう普通の彼氏彼女っぽいことも悪くはないな。
カレーを食べ終えた後、二十分くらいして優衣は帰ることになった。
俺は優衣と途中まで家に送ることにした。
それと送っている途中のことだが。
「睦月さん、そのアイス食べたい」
「え、ああ。そうだな」
暑くてコンビニに入ったのだが、優衣のリクエストで、二つに割ることが出来る、棒アイスをコンビニで見つけたので買って二人で食べることにした。
ちょっと扱ったが手を繋ぎながら、俺と優衣は二人きりの学生っぽい甘い時間を過ごすことが出来た。
次に会う時はお互いバイトなどもないので、ゆっくりと二人きりを満喫できるだろうな。
「じゃ、またな」
「うん、またね」
ワンピース姿の優衣を見送って、俺はそのまま家に帰る。
うん、可愛かったな。ワンピ姿の優衣も水着エプロンの優衣も。
良い一日だった。
☆
その日、相葉七海は駅まで知り合いを見かけた。
「今のは、睦月と誰?」
遠回しの中途半端な告白をしてしまい、断られた男の子が見知らぬ女の子と二人で歩いていた。
誰だろう? そう思ったら、彼女はどうしても確かめたくなった。
たまたま、友達の家に夏休みの宿題をするためにここへ来たのがちょうどよかった。
七海は小走りで駅の改札を入り、白いワンピースを着た女の子を追いかけて、彼女の肩を軽く叩いた。
「あ、あのちょっと良い?」
「え?」
振り向いた女の子が目立たないクラスメイトの女の子だったことに、七海は驚いた。
クラスで睦月と話すことのない女の子が睦月の彼女?
いや、ただの友達かもしれない。
だから、彼女は確認した。
「良かったらちょっと話さない?」
「え、う、うん」
彼女も優衣もどうしたらいいのか、戸惑いながら電車が来るまで話し込むことになった。
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