夏休み2
俺も優衣もコミュ障だ。
慣れた人間ながら、普通に話せるが突然、慣れない人間に話しかけられると頭が回らず、言葉がつっかえたり上手く話せなくなる。
一般的な人達はそんなことは無いのだろう。
俺は溜息をつくのをこらえながら、優衣と七海から送られてきたメッセージを見ながら、どう返事をしたらいいのか頭を抱えた。
優衣から、少し遅れて七海から、俺と優衣が付き合っていることが七海が知ったことを優衣のメッセージで理解した。
七海から、優衣から付き合っていると教えてもらったから。とだけ連絡が来た。
これに関して、俺はどう対応すればいいのか分からない。
けど無視するわけにはいかないので、分かったとだけ答えておく。
優衣にはいくつか質問をしておくが。
優衣の話だと一応、口止めはしておいたらしい。
七海も女の子ではあるが、不要なことを周りに教えたりはしないだろう。
そう考えながら、俺は夏休みの宿題を消化し続けた。
☆
夏休みも中盤に入った。夏のイベントは下旬の半ば。
その為に準備は既に終わっている。
イベントは体力が必要だから、優衣も七月の初めの頃からウォーキングを始めているから、体力面では大丈夫だろう。
ガチ勢ではないし。水分補給だけかな? 気を付けるのは。
それと小夜もイベントに参加するということになった。
当人もギリギリまで悩んでいたが、今までのコスプレイヤー際どい画像を見つけてしまったらしく、燃え上がっている。
どうやら、比較的安くて良いデジカメをゲットしたらしい。
一応、監視の意味も込めて、俺と優衣と小夜の三人でイベントは行くことになった。
最初は微妙な表情をしていた優衣だったが、三人で少しイベントの話をしたら、二人はそこまで相性は悪くないらしく、どこへ行くか話し合っていた。
俺と優衣はどうしても欲しいモノがあるわけではない。
なので、イベントを見て回りながら、楽しむつもりだ。
「さて、どうするかな」
夏のコミックフェスティバルの準備はあらかた終わった。
注意事項や、まとめ動画で勉強もした。特に夏だから熱中症対策は大事だ。
「一応、布地が多いちょっと改造されたコスプレ衣装だから、問題はないだろうけれど。やはり少し心配だな」
撮影は断ることにしているが、勝手に撮られることはある程度覚悟した方がいいな。
まあ、小夜も勝手に撮りそうだから、しっかりと言い聞かさないと。
小夜は小動物みたいな美少女、優衣は爆乳な隠れ美少女。
二人をしっかりとガードするために、念の為に防犯グッズも持っていくか。
それと普段よりも少し筋トレの負荷を強めて、半袖でも筋肉が目立つように両腕の筋肉を鍛えておくかな。
やっぱり半袖から見える二の腕が筋肉質だったら、変なちょっかい掛けられる可能性は低くなるだろうし。
そういえば、優衣のコスプレ衣装。イラストだと大きめの麦わら帽子をつけているが、イベントの規定であまり大きいものは駄目みたいだな。
まあ、優衣も分かっているのか、帽子は買わなかったみたいだし。
うーん、日差しが怖いけれど、その分フェイスタオルとか持っていこう。
「ま、どちらにしても、初めてのイベントだし。楽しみだ」
俺はスマホでイベントのことを調べながら、イベント当日を指折り数えて待つことにした。
☆
イベントが三日後に迫った今日は、俺と優衣と小夜の三人で俺の家に集まった。
全員がイベント初参加だから、お互いにどれだけ夏のイベントについて知っているから話し合うことにしたのだが。
「エッチな恰好をした美人の撮影会」
「コミックフェスティバルは、同人誌即売会だ」
さっそく、小夜との認識のずれを確認した。
まあ、小夜は今も陽キャグループだ。同人誌なんて知らないだろうから、健全な電子書籍版の同人誌を読ませてみたのだが。
「え、これって公式じゃないの?」
「ああ、そうだよ」
そこから、優衣も交えて小夜に同人誌。二次創作。コミックフェスティバルのことを改めて説明した。
「なんか、毎年大きなイベントをしているって聞いていたけど、こういうイベントだったんだね」
「調べなかったのか?」
「えっと、会場のルールは調べたよ? 徹夜禁止とか撮影の時の注意事項とか」
「熱中症対策は?」
「調べているよ。わたし、昔から倒れやすかったから。あ、今はもう平気だよ。しっかりと熱中症対策を毎年しているからね。昔、一度危なかったことがあったらしいし」
幼い頃の小夜は身体があまり強くはなかった。だから、毎年両親や祖父母が色々と対策を考えて、小夜もツラいのは嫌だから頑張っていたらしい。
「でも、すごいよね。人気のコスプレイヤーさんとか、アイドル並みじゃん」
「ま、そうだな。けど、優衣は撮影はお断りするわけだから、第二コスプレ広場には行かなければいい。初心者は止めておけって書かれているし」
「うん、撮影する側なら、いいけれど。そもそも、第二コスプレ広場で、わたしを取り囲んで撮影しようとする人たちは居ないと思う」
優衣の言葉に即座に小夜が否定する。
「二つも最終決戦兵器があるお方が何を言っているんですか?」
「あー、そうだな。優衣は可愛いから、衣装のこともある。結構囲まれるかもしれないな。絶対に第二コスプレ広場は駄目だぞ」
優衣は両腕で胸を隠しながら、「分かった」とだけ答えてくれた。
「あれ、ところで睦月さんは行きたいところは無いんですか?」
「うーん、年齢制限に引っ掛かりそうな場所ばかりなんだよな」
ぶっちゃけ、同人誌ならR18を買えそうだけれどな。小学生くらいの見た目なら、流石に無理だろうが。
エロ同人誌を中学生の弟や妹にお使いさせた話もあるくらいだ。
「ま、普通の企業さんのブースを少し見るくらいか?」
「どこですか?」
優衣と小夜が聞いてきたので、俺は遊んでいるゲームの一つのサイド・スター社の名前を挙げた。
「へー、そんな会社があるの」
「あ、そういえば、睦月さんはアオハル物語遊んでいましたね」
「ああ、ストーリーが面白くてね」
「……水着コスプレ、アオハル物語のモノにした方が良かった?」
「いやいや、優衣の好きなモノをコスプレしてくれ」
俺と優衣が話していると、気になったのか小夜が自分のスマホでアオハル物語を調べていた。
「あ、このゲームが。へー、綺麗なアニメだね」
「ああ、凄く青春って感じのゲームだな」
「…………」
「小夜?」
動画サイトでゲームのオープニングを見始めて、すっかりその世界観にハマったのか、優衣はオープニングを見終わった後、小さくため息をついてこう告げた。
「このゲームって、難しい?」
「いや、アクションとかではないから、そこまでではないな。課金しないなら多少リマセラは必要かもしれないが」
「リセマラ?」
「リセットマラソン、最初の貰えるガチャが出来る石があるんだが、それで良い結果になるまで引くってことだな」
「二人とも、ちょっとこのゲームのこと教えてくれない?」
俺はこの後、最初のガチャで人権キャラと呼ばれるキャラを一発で三枚抜きする奇跡を目の当たりにして、優衣と共に驚愕することになった。
ちなみに合計で五十連ガチャが出来たのだが、限定ガチャ以外の人権キャラを更に二人を引き当てた、あまりの豪運に俺も優衣も思わずいろんな意味で涙を流すことになった。
「戦闘のチビキャラ可愛いし、結構簡単に遊べるね」
「合うなら良かったよ。……優衣、そろそろリセマラは」
「まだいける、大丈夫」
俺も優衣もガチャ運は悪くないが、今日の優衣のガチャ運は最悪だったようで、結局明日に持ち越しとなった。
それから三人でイベント当日の話し合いをしながら、小夜のアオハル物語の攻略を手伝ったりしながら過ごした。
「わたし、冬のイベントこのゲームの制服着たいな」
門限が少し早めの小夜が先に帰る時にそう言いながら、帰ったので今年の冬のイベントに新しい楽しみが増えた。
「それじゃあ、今日も一緒に夕飯作ろうか」
「うん」
二人きりとなった後は、二人で夕飯を作ってしばらくイチャコラしながら、前回と同じように優衣を駅まで送った。
うん、本当にイベントが楽しみだな。
何事もトラブルが起きないといいけれど、少し不安だが。
なるようにしかならないか。
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