黒髪


放課後、部室に入ると部室内部の温度に眉を盛大に潜めてしまうが、事前の優依との話し合い、部費で部室のカーテンを格安家具で有名な会社が販売している、熱を遮断するカーテンに変えておかげで、部室の温度はかなりマシになっている。


実はウチもその会社の製品をかなり使っているので、夏のことを考えて優依に話すとはじめは本当に効果があるのか? と疑っていた優依だったが、試しに暑くなってきたときに、元のカーテン戻してみると温度にかなりの差が出た。それ以来、熱を遮断するカーテンにし続けている。元のカーテンは準備室で透明なポリ袋に入れて保存している。そのままだと、ホコリで大変なことになるし。



ちなみに部費は顧問に申請を出せば使える。


この部活の部長は優依。真面目な生徒で成績も良いので顧問からも信用されてる。


一応、上級生も部員として所属しているが、一度だけ行われた顧問も交えた話し合いでは、他の幽霊部員は、俺達は部活に参加しないと遠回しに言っていたので、部長の座には俺か優依にという話なり、優依が立候補したので優依に決まった。


彼、彼女達のおかげで日々、優依とイチャコラ出きると思うと感謝の念しかない。二度と部活には参加しないでくれ。と、割りと本気で思っている。


「今日はいい風が吹いてるな」


今日は風のある日なので、少し窓を開けている。


空気の入れ換えは大事だ。この部室にはエアコンなんて物はない。


ふも、優依を見ると風の影響で優依のストレートロングヘアが言い具合に風になびいている。


最近暑いのか、優依は髪を一つに結んでいることが多いが、今日は結んでない。


「睦月さんは」

「ん?」


ソファに座る優依をパイプ椅子に座りながら眺めていると、ラノベを読んでいた優依が思い出したかのように、顔を上げて俺を見ながら問いかけてきた。


「睦月さんは、髪は長い方が好き? それとも、短い方が好き?」


優依の突然の問いかけに、すこし考えて俺は答える。


「うーん、長い方かな」

「……そう」

「どうして? 切ろうと思っていた?」

「夏のイベントで、コスプレしたいなって、それで調べたら髪が長いと大変だと聞いたから」


ああ、確かにな。やるコスプレによってはウィッグも必要だよな。


「それに夏休み……その、浴衣着てみようかな、と」


浴衣、夏祭りか! 地元の祭りだと誰かに見られそうだな。良い祭りを調べなければ。


「浴衣、着るなら髪は長い方がいいかなって?」


そう言いながら、優依は両手で自分の髪を束ねて、身体を横にしてうなじを見せてくれる。


セクシー! いや、あの本当に素敵。

長い髪を纏めて、うなじが見えるだけで心にグッとクるよね。後ろから抱き締めて首筋にキスしたいよ!


「出来れば、髪は長いままで!」

「ふふ、変態」


俺が何を考えているのか察した優依が、可笑しそうに笑う。


「あ、後ろから抱き締めてもよかですたい!?」

「それ何弁? 九州?」

「いや、適当。ええっと、それで優依。後ろから良い?」


俺の言葉にしょうがないな。という表情で「いいよ」と言ってくれた。


なので、パイプ椅子から立ち上がり、優依が座っているソファのとなりに座ると、優依は俺に背を向けてチラリとコチラを見る「……ブレザー脱ぐ?」と聞いてきたので「お願い」と言うと優依はソファから立ち上がり、ブレザーを脱いだ。


うん、ちょっと俺を気にしながら、ちょっと恥ずかしそうにしている優依は可愛い。


ブレザーを部室にある長方形の折り畳み式の机に置いて、俺に背を向けてソファに座る。


「…………」

「優依、だ、抱き締めるぞ」


俺が言うと優依はコクリと頷いた。

そのまま、両腕で後ろから優依を抱き締める。


右腕は優依のお腹に回して、左腕は優依の左腕は、優依の左脇の下から優依の胸のやや上辺りに回す。優依の胸には触れないようにする。


回した左腕の手は優依の右肩に来るようにして、俺の方にちょっと強めに抱き寄せる。


「そのまま、俺に寄りかかって良いから」

「ん……」


優依の重みと暖かい感触。

そして、ほんのりと優依の汗の匂い。


ああ、ヤバイ。これうなじとか以前に幸せが込み上げてくる。


「……優依」

「ん?」


俺は優依の耳元でこう囁いた。


「大好き」

「……っ!?」


俺が囁くと驚いた優依がバッと勢い良くこちらを向いて、バシバシと優依に叩かれた。


優依は手で耳を押さえながら、顔を紅くしている。


「ご、ごめん、嫌だったか?」

「恥ずかしいから、耳元で囁くの禁止!」

「えーっ」

「ビックリするから駄目」


そう言うと、優依は前を向いて俺に身体を預けてきた。


「優依」

「なに?」

「優依の浴衣楽しみにしてるよ。だから、夏休みは祭りな二人で行こうな」

「うん」


俺は優依が頷くのを確認すると「ぎゅーっ」と言いながら、優依を強めに抱き締め。優依の手もしっかりと俺の両腕を握り返してくれた。



今日も何時ものように、優依と二人で過ごす穏やかな放課後だった。


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