端から見たらアウト


小さい頃、父さんに言われたことがある。


「睦月、覚えておけ。女に体重のことを不用意に言うと、俺みたいになるからな」


朝起きて、顔を洗い、両親に挨拶しようとしたら、父さんの右頬は見事に腫れていた。

ちいさいなりに、ああ、また父さんは母さんを怒らせたのか、と思ったよ。

それからも、父さんには色々と教わることになった。




「重くない?」


レジャーシートの上に仰向けに寝転んだ俺の腹の上に、ブレザーとセーターを脱いだ優依が俺に跨がって、最初に発した言葉がそれだった。


あまり体重とか気にしてなさそうだけど、こういうところも可愛い。


「大丈夫だ、これでも、身体も鍛えている。それに優依は少食だろ? 寧ろ軽くて心配なんだけど」

「……例え、心配でも女の子に食べろとは言わない方が良い」

「すまん、でも、本当に重くないぞ」

「ならいい」


端から見たらアウトな体勢だけど、体重の方が気になるようだ。少し恥ずかしそう。


「それで、これからどうするの?」


俺の腹に跨がる優依。


普段目立たない巨乳がしっかりと見える。


正面、上から見るおっぱいも良いけれど。


「Beautiful」


下から見上げるおっぱいも良いものだ。


普段の日常生活で、俺が優依のおっぱいを下から見ようとすれば、間違いなく警察を呼ばれる。けど、部室なら問題ない。


「本当にbeautiful!」

「鼻息が荒い……、気持ち悪い」


興奮する俺を侮蔑したように見ながらも、優依は何処か恥ずかしそうにしていた。


「優依、ちょっと自分の腕でおっぱいの下を抱き締めるようにしてくれる?」

「……分かった」


サイズが大きいシャツなので、おっぱいが大きいことは分かるが、おっぱいの形がシャツでやや分かりづらかった優依のおっぱいの形がハッキリと浮かび上がる。


「ああ、すごい大きいね」

「……恥ずかしい」

「そのまま、左右に身体を強めに動かしてくれる?」


俺の頼みに優依は少し戸惑うが、頷いて身体を横に動かしてくれる。


「すごい揺れだ」


感動して思わず、泣きそうになる。


「なんで、泣くの?」

「おっぱいに感動して」

「変態」


蔑んだ目で見下された。これはこれで、ありかな。


しばらくじっと優依と優依のおっぱいを眺めていると徐々に頬を紅くしていく。


「……まだ、見る?」

「うん、上下運動をお願いします」

「…………分かった」

「あ、手を繋ごう、両手で指を絡ませて」

「ーーっ、うん」


優依の小さくてすべすべしている手を、俺の手と合わせてぎゅっと、指を絡ませ合う。


「まだ、手を繋ぐの恥ずかしい?」

「何か照れる……」


俺の上に跨がり、上下運動しながら、両手を恋人繋ぎ。


うん、やっぱりコレは、端から見たらアウトだわ。


「照れている表現、可愛い」

「うるさい、変態」


ゆっさ、ゆっさと上下運動している優依の手を俺は優しく引っ張ると、優依は察したのか、ゆっくりと覆い被さるように俺の身体に倒れてくる。


その結果、優依のおっぱいが、俺の胸に押し付けられる。


漫画の効果音で、むにゅっ! みたいな擬音があるけど、あれが本当だったんだと俺は確信した。


「柔らかくて、暖かいな」

「私はちょっと堅い感触」

「痛いか?」

「ううん」


少しの間、俺と優依は見つめ合い、優依が俺に聞いてきた。


「そういえば、睦月さんはあの漫画家さんの声は好きなの?」


少し拗ねたような声色に、俺は誤解されたくないので直ぐに答える。


「アイドル声優のファンみたいな感じで好きかな」

「ファン……」


少し悩むように呟く優依。俺は優依が変な誤解する前に、我が儘を言うことにした。


必殺、話題そらし!


「声優ごっこしようか?」

「声優ごっこ?」

「ルールは簡単、お互いに言ってほしいセリフをお互いの耳に、マイクに見立ててセリフを言い合う。勝敗は先に参ったと言った方ね」

「な、何それ」


意味が分からないと戸惑う優依に、俺はこう言った。


「先攻は俺ね、優依が言うセリフは『私を抱き締めて』で」

「ちょっ、ちょっと待って、何言ってんの!?」

「ほら、言ってみて」

「や、やだ」


俺は優依と繋いでいた手を離して、優依の腰に腕を回して、俺に抱き寄せる。


優依はちょっと抵抗したけど、直ぐに力を抜いた。


「……あのVTuberをやりはじめた漫画家さんの声も好きだけど、一番好きな声って、優依なんだよ」

「……」

「VTuberに嫉妬する優依は可愛いしね」

「……二次元なら」

「ん?」

「二次元なら、まだ許せるけど」

「うん」

「VTuberは2.5だから、将来運が良かったら、結婚出来るかもしれないから、駄目」


いやいや、待て待て、声優と結婚出来ると信じてるファンみたいなことを言い出したぞ。


「無いから」

「い、イベントとか行けばリアルに会える! 向こうが、睦月さんに一目惚れする可能だってあるかもしれない!」

「無いって!」

「でも、お姉ちゃんは好きな男性声優追っかけて頑張ってるよ!」


ーーぐっ、答えづらい返しをしやがって!


「はぁ、優依」

「……何」


じっと俺を見つめてくる優依、その表現は不安そうだ。


少し、考えてみる。もしも優依がイケメン漫画家のサイン会などのリアルに会えるイベントに行くと言い出したら、


最近はやりのジャンルの薄い本みたいなことにならないか心配で堪らない。


うん、ちょっと軽率だったかな。優依の前で美人なVTuberな漫画家の放送を見たのは。


「あー、俺は優依が好きだ」

「……」


いきなり何を言い出すんだ? とちょっと恥ずかしそうだ。というか、面と向かって好きって言うのほ、俺も恥ずかしい。


「優依は俺のこと好き?」


俺の問いに、数秒悩む素振りをみせて、無言で俺を抱き締め、


ーーチュッ


俺の頬に柔らかい感触がした。それが優依の返答だった。


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