第94話 日差し

 「社長も当分は忙しいんで気が紛れると思いますよ」狐が言った。条件は連絡係の狐を同行させる事。それなら旅を続けても構わない。


 「マリアのお父さんの会社って凄いね。国を立て直すのに協力出来るなんて。どれくらいの規模の会社なの」ザンはリリーとボードゲームをしていた。ジャンはいなかった。ライムブルクに帰って王都復興に忙しかったし、ロギチーネも地獄に帰って各層の悪魔の分配を再編していた。今回の騒動で悪魔が大分減った。まだ地上に残る悪魔は罰せられる。


「どうやるのかしら。国の立て直しなんて」リリーが言った。


 「お父様は先代にお世話になったらしいから」マリアはメグの手綱を握っていた。「避難していた王家の血縁を呼び戻すらしいわ」


 「ギルガンさんが相談役なら大丈夫だよね。元々領主だったんでしょ。少し話したけど、かなり聡明な人だったよ」とザン。


 「社長はライフワークになるだろうとおっしゃってました」狐はマリアの肩を揉みながら言った。


 「ライフワークって何よ」マリアが訊いた。


 「生涯かけて死ぬまでする仕事って意味だよ」ザンはリリーに負けた。


 「人民に必要な資金を出して、組織を再編して王を即位させる。なんかそんな感じ?」リリーは馬車に寝そべった。少し肌寒いが今日は日差しが暖かい。


 「まあ、計画をちらっと聞いた限りではそうでしたね」狐はマッサージに疲れてきた。2時間くらいさせられているのだ。


 「多分国もお金を儲けないといけないから、それを最初、マリアのお父さんの会社が手助けするんじゃないかなあ」ザンはあまりそういう本を読んだ事はなかった。「強くなって、自分でやれるようになれば離れるとか」


 「ふーん。国も会社みたいなのね」リリーは顔を洗い始めた。


 「でもさ、マリアのお父さんって尊敬されてるよね。帰って来た偉い人はみんな敬礼してたよね」ザンは目を輝かせる。「カッコいいよね。伝説レジェンドって感じ?」


 「そうなのかなあ。わかんない。もういいわよ」マリアがそう言うと、狐はその場に座り込んだ。


 「バルバロさんの故郷まだかなあ」ザンはバルバロの骨壷を見やった。


 「まだ1日はかかりますよ」狐が言った。


 「宿を探さないとね」リリーが言った。


 「疲れた。あんた代わりなさいよ」マリアは狐に言った。


 「はい」狐が手綱を受け取る。


 「今日は日差しが気持ちいいわねえ」マリアは馬車のヘリにもたれかかる。


 マリアが見ると既にリリーとザンは寝ていた。


 

 メグが引く馬車は何もない草原の、か細い轍をゆっくり走った。ちょうどギュスタヴとマリアが初めて出会った場所はこことよく似ていたが、マリアは小さかったので覚えていない。


 彼女はギュスタヴにとって太陽だった。どこにいても照らして暖かくしてくれた。

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マリア・サーガ 山野陽平 @youhei5962

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