最終話 勇者姫と使い魔王子

 「あ~、気持ち悪かっ……った?」

 俺は気が付くと自室のベッドの上で制服姿のままで横になっていた。

 左手には忌々しい指輪、試しに外そうと掴んで引いてみたが無理だった。

 

 どうしたものかと思案していたら、突然俺の右目に、マルタと彼女のいる部屋が映し出された。


 「ライド、起きたみたいね♪ 無事に使い魔化と天の使徒化も成功ね♪」

 すげえ可愛らしい笑顔で微笑んでやがると俺が思ったら、映像の中のマルタが

顔を赤らめて身悶えを始めた。

 「……もう、ライドの馬鹿♪ あなたってばそうやって私を喜ばせるの♪」

 頬をピンクに染めてとろんとした瞳で俺に語り掛けるマルタは色っぽかった。

 「……え! ちょ、ライドのエッチ♪」

 「いや、エッチって何だよ!」

 声を出してみると、マルタに聞こえているようで向こうが返事をしてきた。


 「わ、私とライドは魂レベルで繋がってるの! ライドの考えている事や感覚

はこっちに伝わるし今はリンクの魔法が発動しているので互いの目から相手の様子も見れるし会話もできるのよ」

 と、説明してくれる。


 「あ~、迂闊に変な事は考えられねえな」

 それを聞いて焦る俺、一瞬だが頭の中でマルタの下着姿を思い出す。

 「そ、そうよ! エッチな事を考えるのは良いけれど時と場所を考えてよね!」

 マルタの方も、俺がいやらしい事を想像したのがわかったようで慌てる。


 「リンクの魔法は調節が可能だからお互いのプライバシーの配慮はするわよ!」

 こちらにもマルタのドキドキする感じが伝わって来る。

 向こうからの一方通行ではないのはありがたい。


 「ライド、今してやったって思ってるでしょ? 意地悪だよ!」

 俺は元々こういう性分だ、傲慢の一族だし他人に上に立たれるのは嫌いだ。

 「そういう悪者根性は駄目だよ、私がしっかり更生させるからね!」

 マルタがムキになる、はっはっは可愛いので出し抜いて意地悪したくなる。


 「あ、明日から覚えていなさいよ馬鹿ライド!」

 「はっはっは、俺はもう負けん♪」

 マルタからのリンクが切れ、右目の視界が元に戻った。


 マルタめ、自分が魔王の息子と繋がったらどういう事になるか思い知らせてやる♪

 

 俺はこのマルタとのやり取りを経て、自分の身に起きた事を受け入れる事にした。


 使い魔化のお陰で、俺は弱点であった聖なる力への適正が付いたのを感じていた。

 神の使徒にされた事で、光と闇を兼ね備えた最強に見える状態だ。

 

 これはありがたい、神の使徒にして悪魔騎士って響きが格好良いじゃないか♪

 

 こうなったら、マルタを俺色に染め上げてやる♪


 俺はお前から逃げられないが、お前も俺から逃げられないんだよマルタ。

 

 俺を選んだことを後悔しても遅いぜ、甘味は心地良い感覚だが知れば欲しくなり

摂り過ぎれば身を蝕む毒となる麻薬と一緒だ。


 恋の甘さもそれは同じ、あいつを完全に俺の虜にしてやる。

 

 逆に俺があいつの虜になるかもしれないが構わない、マルタに使い魔にされて

感覚がリンクした時にあいつの甘い匂いを嗅いで俺も恋の甘みを知ってしまった。

 「もう駄目だ、あいつが欲しい」

 俺はこの日、恋に落ちた。


 翌朝、俺は身支度を終えて寮を出て学校へと通学する。


 校門の前まで来ると、俺の鼻に蜂蜜のような甘い匂いが入って来た。

 「おはよう、ライド♪」

 後ろから掛けられた声に俺は振り向きダッシュで近づいて声の主を抱きしめた。

 「ちょ! ライド、どうしたの?」

 マルタが俺の行動に驚くが、振りほどくことなく俺を受け入れていた。


 「おはようマルタ、お前の甘い匂いが鼻に入ったら我慢できなくなった」

 俺は犬のようにマルタの首筋に自分の鼻を当てていた。

 「う、嬉しいけど皆が見てるよ~」

 マルタが顔を赤く染めながらおどおどする、お前の嬉しがってる気持ちは俺にも伝わってるよ。

 

 「構わない、俺達はもう神も国も認めたバカップルだ♪」

 「……そ、それはそうだけど!」

 マルタが何かを言おうとするが、俺にはこいつの胸がときめいているのがわかる。

 

 「はっきり言うぞ、お前は俺を捕まえたつもりだがお前も俺に捕まったんだ」

 本人にきちんと口で想いを伝える、周囲の奴らは俺達を避けて登校して行く。

 校門の前は俺とマルタの二人きりだ。


 「……うん、ずっと私を捕まえていてね♪ 私もあなたを捕まえてるから♪」

 「ああ、俺はお前を離さない♪ お前はもう我が物だ、俺の可愛い勇者姫♪」

 「……はい♪ 私はあなたの物であなたは私の物よ、私の使い魔王子♪」

 俺とマルタは、互いの想いを胸で感じ合いながら口に出し合う。

 

 これまでは呪いだとしか思えなかった神の祝福を、俺は今ようやっと心から祝福だと感じて神に感謝した。

 「……ああ、俺も神の愛し子だったんだな魔王の息子だけど」

 「そうだよ、神様は誰だって愛しているのよ悪魔も人間も」

 「愛情表現は、相手にわかりやすく直接伝えなきゃ駄目だって文句言いに行く」

 「悪質なクレームは駄目だよ♪」


 「いや、これは正当な権利だ天の法廷で裁判して勝ってやる♪」

 俺とマルタは、誰もいない校門の前で抱き合いいちゃついていた。

 ちらりと横目で校門を見ると、いつの間にか校門は閉じられてしまっていた。


 「……ところで、私たち学校サボっちゃったけどどうするの?」

 「そうだな、二人でパーティー組んで何かクエストを受けに行こう♪」

 「うん、子供の頃みたいに二人での冒険にレッツゴ~♪」

 俺の提案にマルタが太陽のように輝く笑顔で応じる、その笑顔が何よりも愛おしかった。


 俺とマルタは校門に背を向けて、街の冒険者ギルドへと向かって歩き出す。

 これから何が起こるのかわからないけれど、俺とマルタの二人ならどうにかなる。

 

 俺達の冒険はこれからだ♪

 

 

 


 


 

 

 

 

 


 


 


 

 

 

 

 

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勇者姫と使い魔王子 ムネミツ @yukinosita

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