第3話 嫌な予感

 「嫌な予感って当たるんだよなぁ。」

 嫌な予感ほどよく当たる。そのくせ自分に都合のいい予感はかすりもしない。誰もが1度は感じたことがあるだろう。まぁこれから遅れながらに学校に行くのだ、いい予感などする由もない。

 そう思った次の瞬間、前方の曲がり角から何やらいい香り。この匂い、知ってる。今日既にこの匂いとは出会っている。優しい甘さと香ばしい香り、、、パンだ。私の朝食もパンであった。時刻は7時55分。学校では1時限目の授業が今折り返そうという時刻。僕はすぐにピンときた。

 「僕はこの時を待っていた。」

 こんな時間に迫りくるパンの匂い。標的はもう間もなく曲がり角に差し掛かろうとしている。走ってくる足音が徐々に大きくなる。もうあれしか無くね?今世紀最大のときめきに胸を躍らせながら、私もその曲がり角めがけて一歩一歩歩みを進める。もちろん避ける気など毛頭ない。

 俺の青春が今、、、おや?待てよ、青春と僕は交わることのない世界で生きている。言うなれば、水と油。言うなれば、ドラえもんとサザエさん。そう決して相いれない組み合わせなのである。そのうえ俺の運勢は今、3日連続12位という快挙を成し遂げている最中。そんな中、いかにもと言わんばかりのこのシチュエーション。考えてみればこんなの誰が騙されるかって話だよ。ただ、これは家族も知らない僕の秘密なんだが、意外なことに僕は彼女がいたことがないのだ。もしここで、みすみす掴みかけたリア充への切符を捨ててしまったら、そのショックできっと明日僕が目覚めることはないだろう。

 なんて考えている間にもう僕も角の向こうのトーストくわえた美少女も、顔を合わせる3秒前。

 「3・2・1、、、」

 僕の頭は真っ白だ。高鳴る心臓。震える指先。いける!

 「ドーーーーン!・・・べちゃ」

 べちゃ?何が起きたのかわからなかった。僕の前にはただ黄色の帽子があるだけ。おなかに伝わる気持ちの悪い感触。時間が止まったようだった。全部がスローモーションに見えて、もしかしてこれが恋なのか。しかし美少女の姿はない。

 っは!と気づいた時には、茶色い物を顔じゅうに塗ったくったまんまるとした目が2つ、こちらを覗き込んでいる。先ほどの音などとっくに意識からすっこ抜けている。茶色の隙間から心配そうに

 「大丈夫?」

 と恐る恐る聞いてくるから

 「あぁ大丈夫、大丈夫、」

 ととっさに返す。いつの間にかすぐそばまでその子の母親が来ていて、軽く会釈された。その後すぐにその子の手を引っ張って行ってしまった。


 あれ?!美少女は?っと我に返ったときはもう学校の前。自分の思考がどこにあるのかも分からないままに校門をくぐる。がらっとした下駄箱までの道のり、新緑の若葉の香りは、僕のおなかから漂う、優しい甘さと香ばしい香りをすっかりかき消していた。

 僕の嫌な予感は僕に気づかれることもなく、ただしっかりと消えぬシミとして、新品のなんちゃって制服にその跡を残した。そういやぁ、ラッキーアイテムはチョコトーストだったような、じゃなかったような。まぁそんなこともこの瞬間には考えられるはずもなかった。












  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

そんな私は、ハリネズミ 私は作家に向いてない @moukoinannteshinai

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ