第2話 占い
メガネを拾い上げた僕は、ため息交じりに誰もいなくなった静かな家で学校へ行く支度をする。
「一声かけてもよくない?」
家のみんなは自分のことで手一杯。朝寝坊するような男のためにかける手間も時間も持て余してはいない。どうせ遅刻と分かっているのに急いで支度をする義理などない。朝の占いをじっくり確認した後、僕は開き直ったかのようにふんぞり返って悠々と家の扉を開けた。
「いや、12位って。これで三日連続かよ。僕の行いが悪いせいか?だとしたら、こんなちっぽけな男のちっぽけな失態さえリカバリーできないほどに、やぎ座はみんな頑張ってない。ならいいや。」
朝の占いを思い出しながら、僕は誰よりゆっくり学校へ行く。僕の学校は片道25分程度の距離にある。本気で走れば15分といったところだ。朝のせわしないこの時間帯にあくびをしながら歩いているのは、僕と今僕の横を通り過ぎた猫くらいなものだろう。みんなが急いでいるところを自分だけがのんびりできるのはなんかいい。これを優越感というのだろうか。周りに比べて僕は優れているわけでも、何かの分野で超越しているわけでもない。そんな僕に与えられた、数少ない優越感。努力せずに勝ち得たこの快感、おいしい。何よりおいしい。
妄想にふけっていると時々自分でもわけのわからない方向に考えが進むことはよくある。僕は馬鹿なのかもしれれない。時折そう思わずにはいられなくなる時がある。自分のせいで遅刻をし、そのことが原因でこれから忌々しいあいつに怒られようというのに、言い訳の一つも考えていないのだ。そればかりか急いで学校に行くわけでもなく、この状況をおいしい?朝母親に後頭部でも殴られたか?と思うほど僕の頭の中は花畑なのだ。
悔しかったらお前もやればいい。僕を否定したい奴にはそう言うと決めている。奪えるものなら奪ってみろ。これ以上僕から何を奪おうというのだ。こんな状況で焦り一つ感じない。僕はたった今最強になったのだ。そう思った次の瞬間口はすでに動いていた。
「俺は神だーーーー!」
またやってしまった。こうして俺の黒歴史はまた1ページ更新される。膨らみすぎた想像力はもう手が付けられなくなっていた。横を通りすぎる人が新種の動物を見るような目でこちらを眺める。とても恥ずかしい。僕は最強になったらしい。僕は神様になったらしい。
しかし当然ながらおてんとう様は見ている。この言葉を本気にしたわけではないが、今ほど神様の存在を確かに感じたことはない。さすがに神はまずかった。調子に乗った。仏の顔は三度までというが、僕は既に今日だけで何度神様の顔に泥を塗っただろうか。母親に起こされながら寝坊。急がず支度。のんびり登校しながら、すれ違う猫の毛並みを確認。挙句の果てには「俺は神だーーーー!」なんて、本当の神様が聞いていたら黙ってはいないだろう。
ただ俺は神様も占いもほとんど信じてない。だからどうせ罰も当たらない。もしかりに神様がいたとして、こんなしょうもないことしか言ってないやつの話なんてどうせ聞いてない。それに、、、さすがにそこまで悪いことしてないよね。・・・ねぇ。
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