ナチス政権下のドイツで、その若者はジャズにハマった

ふぁぶりーず

『スウィングしなけりゃ意味がない』(KADOKAWA)佐藤亜紀/紹介


 新型コロナウイルスが世界中で猛威をふるっている。この恐ろしいウイルスは私たちの生活の間を這いまわり、隣人に「無症状病原体保有者かもしれない」という疑いの目を向けさせた。マスクをしていない者に厳罰を! そんな叫びが通りから聞こえてきそうだ。


 ウイルスの驚異がなくったって、人と人との距離を適切に保つのは難しい。

 1940年代。ナチス政権下ドイツで、めちゃくちゃにスウィング(ジャズ)した若者たちがいた。佐藤亜紀『スウィングしなけりゃ意味がない』は、そんな無敵の若者たちを描いた青春小説だ。


 彼らを取り巻く息苦しさは、コロナ禍のいまに通底するものがある。ナチスによって“敵性音楽”とされていたジャズは、演奏するのはもちろん聴くこともご法度。だからこそ、青春を持て余した青年たちは最高に“自由”なジャズに惹かれていく。ヒトラーユーゲントの目をかいくぐってジャズのレコードを闇ルートで売りさばくことまでやってのけるのだが、そんな知的でクールな彼らを見ていると「いっちょやってみるか」という気持ちにさせられる。


 地上では死体が山をなし、地下では若者がスウィングする。

 緊急事態宣言下の新宿三丁目をのぞいたら、誰も知らないような路地裏で、スウィングの音が聴こえていたのだろうか。そんなことを考えてしまう。

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