猫耳奇譚

黒Tシャツ

第1話

 昨日は学校が休みだったから良かったけれど、今日はもう誤魔化しが効かない。いや、むしろ好都合だ。頭に耳が生えたまま学校に行けだなんて、母さんも言わないだろう。これでしばらくは学校を休める。待てよ、その後はどうする?いや、とりあえず話しに行こう。


 そうして、学校に行く事になった。母さんは頭の耳に興味も驚きも示さず、いいから行って来なさい、学校が終わったら病院で見てもらって来な、の一点張りだった。学校に来るまでは帽子をかぶっていたが、学校内ではそうも行かない。教室に行く前に担任の先生に相談しに職員室に行く。


 先生の反応もあっさりしたものだった。人気のない職員室前の廊下で帽子を外した私の頭を見て、驚いて目を大きくさせた後、痛みや違和感がないかを確認したら、とりあえず授業に出なさい、と言われた。そう言われてしまえば仕方がない、で済むわけがない。再び帽子をかぶり、廊下を歩き、教室に着いて、自分の席に座っても、帽子を外す勇気はない。いったい、周りからどんな目で見られるか。


 結局、朝のホームルームは帽子を外して受けた。登校時間ギリギリに慌てて教室に入って来た隣の席のエイナが、シャツの胸元をバタバタさせて、暑そうにしていたので、私は苦笑した。必死に深呼吸をする彼女の様子が面白くて、気が緩んだ私は、思わず自分がかぶっていた帽子で、彼女の事をあおいでしまったのだ。すぐに先生が教室に入って来て、号令がかかる。立ち上がった瞬間、私は自分が帽子をかぶっていないのに気付いたのだが、不思議とあせりは感じなかった。着席した後も、何事もなかったようにホームルームが始まり、周囲の目線も気にならなかった。

 その後、周りの生徒からとやかく言われる事もなかった。廊下ですれ違う人たちも、ちらっと私の頭を見るだけで通り過ぎて行く。どうやら、私が気にしすぎていたみたいだった。ちなみに、隣の席のエイナは、私の頭の異変に気付くとすぐに、指を差して笑い出したので、彼女には少し怖い顔を見せておいた。


 放課後、自宅のすぐ側にある個人病院で見てもらうと、腰の曲がった先生が、こういう事は昔から時々あって、騒ぐほどの事ではないし、2、3日すれば耳も引っ込むから心配する必要はない、と言ってくれた。当然、処方箋を出される事もない。そう言われてしまうと、それはそれで少し寂しい気がする。ほんの短い間しか、この耳とは付き合えないのか。家に帰り、私は今までした事がなかった自撮りに挑戦してみたが、中々上手くいかなかったので、適当な写真を一枚だけ撮って、すぐに諦めた。たぶん、その写真もすぐに消してしまうだろう。

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