第5話 登り路は下り調子に

衝撃的な光景は頭を脳震盪直前までも振っても、消えることはなかった。

この程度で忘れたい記憶が消えるならば、苦労はしない。

中学の記憶もそんな風に消えてくれれば、モノローグ語りを脳内で第三者に語りかけることはなかったはずだ。

不幸なわけではなかった。

友人もいたし、仲のいい女の子もいた。

部活も勉強も家庭さえも一つとして悩みになる要素はなかった。

それは寂しいくらいに何も。

変化がなくて退屈であったというつもりではない。

厨二的思考の病は、小学生時代の深夜アニメによって発症せずに過ぎていった。

画面の中の彼らの特異性に圧倒されていたことは覚えている。


悲惨な現実も心の病も退屈もなかった。

何もないという事実は、活力を奪い。

自分自身の存在意義さえもあやふやなこの世の中では生きにくかった。

そんな自信のかけらもない僕に友人以上な関係の人間ができるはずもなく。

負い目がないことの負い目は増大し、彼らの悩みをいつからかうらやましいとさえ思っていたのだ。


選択肢やチャンスはいくつもあった。

深い仲になることも、逆に浅くすることも、埋め立てだって決意によってはできたはずだ。

選択を選択しなかったのは僕自身であるし、誰かの責任でもない。

それでも誰かのせいにできるならば。

例えば世の中なんかに責任を擦り付けられたら、いかに楽だったろうか。

それさえも僕の意識は拒絶する。


意識を外に向けると。

もう高校が目と鼻の先だった。

距離は近いが、道のりはもう少々続くようであった。

高校の構造はなぜか駅にお尻を向けているようなもので、裏門の方が駅に近かったためだ。

逆に正門はぐるっと半回転しなくてはたどり着けない仕様になっていた。

数年前に建て替えられたはずなのに、なぜ利用者の多い駅側を正門にしなかったのか疑問ではある。

まぁ、新入生がいきなり学校の立地に対して文句を言うのは浅はかだろう。

さらに言えば、その立地の学校を選んだのは他ならぬ僕である。

文句を言うなら、建て替えたばかりの校舎や、都立で屋上に出ることができる珍しさにひかれた僕に言うべきだ。


1000人近くが通う学校のはずなのに、歩道はすごく狭い。

隣接する中学校に通う生徒と遠慮しあいながら歩くのはいささか非効率ではないだろうか。


継ぎ接ぎだらけのコンクリートは舗装というには頼りない。


学校が見えてから二つ目の曲がり角でほとんどの先輩は左折していった。

残りの少数派はそのまままっすぐコンビニエンスストアにむかうようで。

多数派についていった僕は前に倣って左折。


小さな石垣は観葉植物が植えられており、上からは木漏れ日が薄く差していた。

いずれも高校のものだ。

曲がりかけの電柱を過ぎると、足元の色が鮮やかになった。


レンガによって入り口近くが彩られ、外面を気にしているようにしか感じられない。

学校が近づくにつれ、印象がだんだん悪くなるのはなぜか。

他人に理由を求めている時点でお察しではあるが。

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半端もの青春譚 すらっしゅ @slasho6o8

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