第4話 会社員

なんだか騒がしいなと思いながら出社した。

駅も街も異様な雰囲気だった。

至るところで暴力や略奪が行われている。

通勤電車はガラガラだった。


一体何が起こってるんだ?


いつも通り定時ギリギリに会社に着くと、出勤しているのは係長ただ一人だった。

何やらヘラヘラしている。


「何かあったんですか?」


…と尋ねると「もうおしまいだ、あひゃひゃ」などとわけのわからないことを言っている。


「なにがおしまいなんですか?なんで?」

「君はニュースを見てないのかね?あひゃひゃ」

「見てませんね」

「ネットは?あひゃひゃ」

「見てませんね」

「……その方が幸せなのかもしれんな、あひゃひゃ」

「だから何なんですか?」


そこでようやく隕石の話を聞いた。

どうやら人類を滅ぼすのに十分な大きさらしい。


「地球は滅亡だ、あひゃひゃ」

「地球は滅亡しませんよ、人類は滅亡するかもしれないですが」

「同じことだ、あひゃひゃ」

「同じじゃないですよ、地球に失礼じゃないですか」

「どうせもう死ぬんだ、あひゃひゃ」

「というよりもう死ぬってご存知で仕事もしないのなら、なんで係長は出勤して来たんですか?」


係長は泣き出してしまった。

聞いてはならないことを聞いてしまったようだ。

仕事人間なのはわかっていたが、本当に他にすることもないらしい。


「さてと…」

「君は何をやってるのかね?あひゃひゃ」

「仕事ですよ、取引先に見積書を出さないと」

「…なんで?あひゃひゃ」

「なんでって…仕事やんないと」

「もう死ぬんだよ?あひゃひゃ」

「もう死ぬなら働かなくていいって社則でもあるんですか?」

「……あひゃひゃ」

「さっきから係長おかしいですよ、見積書作ったら、あとで確認してくださいよ」

「取引先だって機能してないよ?あひゃひゃ」

「関係ありませんね、見積書作るのが私の仕事です、作った見積書をどうするかは先方の都合です」



「係長、確認をお願いします」

「…ふむ…あひゃひゃ……ここ直しといて、あひゃひゃ」


なるほど、確かに一点、間違っていた。

あひゃひゃとばかり言っていても係長の仕事魂は変わっていないようだ。

というより本当に仕事だけがアイデンティティなのだろう。


出来上がった見積書をメールで送信した。

係長の話を総合すると、受注に至るだけの時間は残されていないようだ。


急ぎの仕事は終わった。


「係長、もう急ぎの仕事もないみたいですし、有休もらいますね、帰ります」

「あひゃひゃ」


会社の外に出た。

街の混乱は拡大し、暴徒と化した人の津波があちこちに押し寄せている。

警察官たちによる規制や取り締まりも行われていないようだ。


隕石が降ってくると、法を破る者が極めて多い。

またひとつ知見を得た。

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