第2話 新人
先月、職場に新人がやってきた。
私の職場は海の中。
海上に建設されたフロートの底を目視で点検する仕事。
「じゃあ行こうか」
ブリーフィングルームで業務内容を打ち合わせた後、未だ緊張の解けない新人を準備室という名の前々々室に連れ出す。
ブリーフィングルームを含め、海中メンテナンス業務施設は標高マイナス5m、つまり海に沈んでいる部分にある。
まかり間違って全ての扉が同時に開くと浸水してくる。
潜水艦と同じこと。
だから
全ての部屋において、片方の扉が閉じなければもう片方の扉は開かない。
準備室では、ダイバースーツやヘルメットを着用し、アクアラングを背負う。
装備点検室内には3m程度のプールがある。
このプールの中で装備上の問題がないことを確認する。
問題があれば非常ボタンを押すことで水を排出することが出来る。
前室では水中バイクに乗り、ブリーフィングルームにいる上司と無線でコンタクトを取る。
「こちらSbm1、シエラ、ブラボー、マイク、ワン
、スタンディングバイ」
「こ、こちらSbm2E、シエラ、ブラボー、マイク、ツー、エコー、スタンディングバイ」
「注水開始」
「注水開始了解」
「注水開始了解」
「大丈夫だ、いつもどおりだよ」
そして前室への注水が始まる。
注水が完了すると外扉が開き、水中バイクにて発進、業務にあたる。
出発そうそうに新人が水中バイクの制御を失い、その水中バイクは新人を振り落としてどこかへと泳ぎ去っていった。
自分も水中バイクを放棄し、新人に泳ぎ寄る。
人命のためなら水中バイクはいくらでも放棄していいことになっている。
どうせ安物だ。
「大丈夫?いや大丈夫じゃないね」
パニックに陥って上下の感覚がわからなくなっているようだ。
アクアラングからの泡を見せて海面の方向つまり上を示して上に泳いでいくとも言うが、実際はそうではない。
背負っているアクアラングの肩紐には非常用ボタンが設置されており、新人のボタンを押し込む。
すると圧縮ガスが解放されてバルーンが膨らみ、人は嫌でも海面へと浮かんでいく。
膨張式救命胴衣とまったく同じである。
新人だけ浮かばせておくわけにもいかないので自分のバルーンも膨らませ、新人を追いかけて浮上する。
まあ誰でも最初はそういうもんだよね…
…と思い、夕焼けの空を見つめる。
おかしい。
今はまだ朝ではないか。
ゆっくりと巨大な火球が落ちてきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます