第7話 三次元への招待券

「前菜を食べに行こう」


駅前広場(の外れ)にて、ウナ娘たちのライブ音を聞いているとAはそう言った。

(何を言ってるんだ?)と一瞬思ったが、いつものAの回りくどい言い回しをいつも通りに頭の中で解釈する。

そして、約3秒で一つの結論を出した。そして、答え合わせのために口を開く。


「・・・前菜?」


「うむ。“アルティメットうなぎ”を食べる前に、軽く食事をしておこうと思う」


「・・・ようするに『朝飯を食べよう!』ってこと?」


「言い方を変えればそうだな。腹は減っているか?」


「お腹は減ってるねぇ~~~。・・・っていうか、“アルティメットうなぎ”は何時食べるんだい?」


「夕方・・・もしくはそれ以降だ」


「えっ!? (今七時の時間帯だから)十時間以上もあるじゃん(呆れ)!!! 朝一電車に乗らなくてよかったんじゃないの?」


またしても私は(何を言ってるんだ?)と思った。

今度は先ほどとは違い、すぐに答えが浮かばなかった。

いつもそうだ。Aは私に大喜利とんちをさせんとしてくる。しかし、嫌ではない。

私はAのそう言うところが嫌いではないし、面倒くさくもない。

分からないので答えを待っていると、Aは答えを言ってくれた。


「・・・ウナ娘」


「えっ?」


「ウナ娘のライブ、もとい、ウナ娘を君に見せたかったんだよ」


人が集まりに集まり、ウナ娘を中心にして、まるでバームクーヘンのように人の輪が層をなしているその最外郭に私とAといる。

先の言葉とともにAは中心部を指さした。

バームクーヘンの中心を見ると、中心に5人のキャピキャピとした女の子たちが小指の先端ぐらいの大きさで見えた。


「遠すぎてよく見えないよ(笑)!!!」


かろうじて見えるぐらいの距離、顔などわかるはずがない。

これでは音楽プレーヤーやスマホなどで音楽を聴いているのと変わらない。・・・とまでは言わないが、正直物足りなさがある。

生で聞くのと迫力が違うのは良いことだ。でもやはり、実物を間近で見ないことには家電製品から鳴るのデジタルライブ音と変わりがしないからだ。


で、だ。


大喜利の答えを言ってくれたの嬉しいが、それでも(何を言ってるんだ?)の答えが足りていない。

A君、続きをどうぞ。と私が尋ねる。


「何ゆえにウナ娘?」


「彼女たちとからだ。食事の時にライブの内容を褒めた方が印象もいいかな~と思ってな。『今日のライブは見てません!』じゃ格好がつかないからな」


「・・・・・・はぁ? 誰が・・・誰たちと食事をするって?」


「Me(ミー)とYou(ユー)が、ウナ娘たちと食事をするといったんだ。実に光栄なことだろう? 日本のトップクラスのアイドル達とプライベートで食事をするなんて一生に一度あるかないかだろうよ」


普通の人生を過ごしていれば、そんなことは一生あるはずがないだろ!っと私は叫びたくなった。

彼女たちは私にとって、いや、この地球上の大半の人間にとっては基本的には『二次元の存在』だ。

彼女たちを見ることは簡単にできる。

いまやネット社会。テレビだけでなくスマホやパソコンで検索すれば、彼女たちは目の前に出現させることができるのだ。

しかしだ。それは三次元ではなく、二次元だ。

液晶画面に映し出された二次元の存在として私たちの眼の前でキャッキャウフフをしてくれるのだ。

直に触ることは勿論、彼女たちの呼吸、香り、体温などを感じ取ることは決して出来ない。

それが普通であり、普遍不変ふへんふへんなのである。

ところがだ。Aはこう言っているのだ。


『彼女たちを三次元で接することが出来る』


なんと面妖なことだろうか?そして、なんと運の良いことだろうか?

ファン(私は熱狂的ではないが・・・)としてこれ以上の幸せがあるだろうか?


ない! 至極最上この上なしである!!!


しかし、奇妙だ。なぜウナ娘たちが一緒に食事をすることになったのか?

そして、そのセッティングしたであろうAはウナ娘とどういった関係なのであろうか?

フランクに彼女たちと食事をすることを話したA。


Aのことが分からない。


嬉しさと薄気味悪さが交差する今日この頃。私の心は濡れつつある。

加えてだ。それ以上に実に恐ろしいことがある。

それは・・・


彼女たちが『揺鰻ゆうなぎ家』の者たちだということだ。

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アルティメットうなぎとスペクターズ ダメ人間 @dameningen

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