粘猫半纏
安良巻祐介
勝手口の方で、「おあああああ」と低く濁った叫び声がしたので、慌てて見に行ってみると、半開きになった戸の内側に、毛むくじゃらの人が立っていた。
「おあああああああ」
見れば、毛むくじゃらと見えたのは、頭に何かの毛皮をかむっているのと、身体に毛だらけの半纏を着こんでいるからで、しかもよく見れば、頭の毛の塊の間から二つ、半纏の毛の合間から二つ、目玉がぴかぴかと光った。
「おああああ」
猫であった。そいつは、猫を頭に乗せて、身体にも猫を纏っていた。
しかも、その猫というのが、いずれも尋常の様態ではなく、手足がなく、骨も抜けたような、いわば生きているだけの毛皮なのである。
そんなものを全身にくっつけたまま、その人は、ただぬっくりと立っている。
「おああああああ」
「おああああああ」
その人が泣いているのか、猫が鳴いているのか、わからないが、そのままにしていたら何か悪いことが起こりそうだったので、慌てて、立てかけてあった箒神を取って、逆立てて思い切り叩いたら、「ぎゃっ」と叫び声を上げて、そいつは勝手口から転がり出るように、逃げて行った。
後で祖母に聞いたところによると、そいつは「粘猫半纏」というもので、人間と猫の中間あたりをうろうろしているらしく、殆ど子どものような心を持っているから、哀れんでやらねばならないし、また警戒しなければならないということであった。
勝手口のほうをそっと見に行くと、ぴかぴかと光るものが一つ落ちているのに気が付いた。
猫の目石だった。
どこか寂しそうに光っているそれを、祖母に知られないように、私は、そっと懐へと隠しこんだ。
粘猫半纏 安良巻祐介 @aramaki88
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます