聖女に惚れてしまった
仲仁へび(旧:離久)
01
神秘の象徴。
奇跡の権化。
慈愛の天使。
この国の聖女様は、すばらしいお方だ。
聖女様は、その身に宿す加護の力で多くの人の怪我や病を治してきた。
この世界では、今暴虐の魔王が暴れまわってている。
そのため、けが人が絶えないし、被害が途切れない。
だから強大な癒しの力を持った聖女様は、そんな人達の希望だった。
「聖女様! 万歳!」「聖女様! 万歳!」「聖女様! 万歳!」
もしかしたら王様よりも人気があるかもしれないくらいに。
そんな聖女様は、汚れを知らぬ乙女でなくてはならない。
そうでないと、力を発揮できないのだ。
聖女様は、誰か一人が独占して良い存在ではないという事だろう。
皆に平等に慈悲をあたえる。それこそが聖女様のあるべき姿なのだ。
俺はただ、あの方の護衛としてその身を守っていれば良い。
「あの、〇〇様」
けれど、二人きりになった時、聖女様がこちらに抱きついてきた。
「私と一緒に、逃げてくださいませんか」
しかし、聖女様はこれまでの仕事に疲れきっていた。
だから、ひっそりと暮らせる安息の地を求めていたのだろう。
そこにいく相手として、彼女は俺を選んでくれたのだ。
光栄だった。
しかし、俺はぐっとその気持ちをこらえて、首をふる。
「なりません。その思いはどうか胸にしまっておいてください」
一時の気の迷いのせいで、大勢の人が不幸になってしまう。
きっと、聖女様にはまだやるべき事がたくさんある。
路傍の石ころごときに躓いてはいけないのだ。
「今はただ、聖女として己の務めを果たしてください」
俺は聖女様を拒絶し、胸に飛び込んできた彼女を引きはがす。
涙をためた瞳から視線をはずし、その場を後にした。
俺は聖女様の事が好きだ。
しかしそれは禁じられた想い。
今のこの世の中で、誰かが彼女を好きになってはいけないのだ。
聖女に惚れてしまった 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます