111.このお城に皆で一緒に住むの
同族が集まる前に、この場にいる者に説明するべきか。全員が集まってから話す方がよいか。咽せるルドベキアの背を撫でるリナリアを見つめ、巫女は思案した。
この世界の問題点は大きく2つ。両方とも誤解から生まれた問題だった。それを広く知らせて誤解が解けた時、ようやくこの世界は女神が望んだ姿に戻るだろう。
世界の番人であるからこそ、世界に干渉できない可哀想なネメシア――世界を変える力をもつのに、人間を哀れんで手を出さないシオン。どちらも膠着状態なのだ。動けるのはリクニスから生まれた、枯れた予言の聖女。
「ミューレンベルギア、皆が到着しましたぞ」
一昼夜もあれば到着する距離だが、魔法を使える上、魔物や魔族の妨害がないため早く着いたらしい。悩んでる間に決まってしまったね。お茶のカップをテーブルに戻し、巫女は立ち上がった。
「おババ様?」
クナウティアの前に立ち、彼女のピンクブロンドに手を伸ばす。触れた髪の色は女神ネメシアの象徴だ。これこそが、決断した女神から突きつけられた答えだった。
すでに女神は未来を選んだ。選べない魔王を置き去りに、世界は変貌へ向けて舵を切る。
「ティアは、魔王シオンが死ぬのは嫌か?」
「嫌よ。魔王様は私に優しくしてくれたもの」
「そうかい」
「このお城に住むの。皆で一緒によ? お父様もお母様も、バーベナもセレアやお兄様達も……おババ様だって一緒に住めると思うわ。このお城広いんだから」
ぐるっと手を広げて、魔族も人間もリクニスも同居できると言い放った。この子が生まれるのを、世界は待っていたのかもしれない。ミューレンベルギアは微笑んで、クナウティアの頭を撫でた。
「そうじゃな、皆で平和に暮らしたらいい」
肯定されたことで、クナウティアは幸せそうに笑い返した。ああ、この負の連鎖を終わらせるのが役目か。泥を被り罵られる覚悟を決めた巫女は、聖女と共に同族のもとへ向かった。その足取りはいつになく重く……。
ネリネから指示が出ていたのだろう。城門の内側にある広場に集まったリクニスの民は、全体の半数以上だ。混血が進んだリクニスの魔力は、昔に比べたら減っている。それでも人間の魔術師とは比べ物にならない強さを誇った。だからこそ、結界で村を鎖して独立を守り抜いた。
「我らは魔王や魔族と共闘する――隠れ住むのは終わりじゃ。リクニスは表舞台に立つぞ」
クナウティアと並んだ巫女の言葉に、リクニスの民は表情を変えた。それは悪い方にではなく、やっと行動できる歓喜に満ちている。魔族同様捕らえられたが最後、奴隷のように酷使される運命を背負ったリクニスが、どれほど苦しんできたか。
「まずは世界に染み付いた誤解を解いてしまうとしようか」
ミューレンベルギアの言葉に興味を持った門番が、知り合いに声をかける。食べ物や飲み物を振る舞う侍女達も同僚を呼び寄せた。巫女の言葉は魔族とリクニスに向けて、世界の真実を明かす。世界にかけられた呪いを解くように、言霊は人々の意識を変えた。
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