99.認め合うことが出来れば争わないのに
朝から女性達のおしゃべりと妄想は止まらない。朝食を終えた彼女らは、侍女のバーベナを巻き込んでお茶会を始めた。
「ねえ、こっちのスコーン美味しいわ」
セントーレアが手元で半分に割り、片方をクナウティアに差し出した。正式な場ならアウトだが、彼女達にとって美味しものを分け合うのは普通。魔族は人間のようなマナーはないので問題なし。自由に育てた2人の母親達も微笑ましく見守った。
「そちらはカボチャが入ってますわ」
頑強な一つ目の巨人が叩き潰したカボチャを混ぜたのだと説明され、クナウティアは目を輝かせた。ぜひ潰すところを見てみたいと強請り、バーベナは「魔王陛下の許可が出たら」と条件をつけて頷く。
「ところで王子様はどこへいったの?」
つい昨日のことだが、すでにかなり前の話題のような気がする。不要だと断じた魔王の言葉に従い、騎士や王子は消えてしまった。いままで話題にならなかったのは、それどころではなかったのもあるが……殺されたとは誰も考えなかった所為もある。
いきなり人に襲い掛かり、犯し、首や手足を千切る蛮族……そう語られた魔族だが、彼女らが出会った人はすべて優しく礼儀正しい。人間の厳しいマナーとは違うが、きちんとした規律に従って行動しているし、絵本に描かれたみたいに涎垂らして襲ってこなかった。
昨晩も今朝も豪華な食事を貰ったが、きちんと肉の種類まで説明された。もちろん噂で聞く人肉を食す習慣はない。スコーンも数種類あって、森の恵みを使ったジャムは豊富だった。人間の大貴族以上の生活水準を保っている。
「お城に戻されたんじゃないかしら」
リナリアはぴたりと言い当てた。あまり興味のないクナウティアは「ふーん」と適当に相槌を打った。少し遠い場所にある黒っぽいお菓子が気になる。
あれ、スコーンじゃないわ。表面にお砂糖がかかってきらきらしてる。
クナウティアの視線を追ったバーベナは、気づいて取り分けた。カヌレなのだが、クナウティアはお皿を目線の高さに持ち上げて嬉しそうだ。
「カヌレと言います。少し硬いですよ」
注意しながら、バーベナが丁寧に切り分ける。本来ならクナウティア自身が上手に割って食べるところだが、そんな煩いマナーを口にする者はいない。クナウティアの不器用さを知ったバーベナは、お皿を割られる前にナイフで四等分した。
「ひとつ足りないわ」
自分、セレア、おばさまと母、バーベナ……ほら、足りない。
そう不満を口にした娘に目を見開き、母リナリアは笑い出した。それからバーベナに耳打ちして、もうひとつカヌレを四等分してもらう。合計8個になった焦げ茶色の菓子を前に、娘とセレア、バーベナに2つずつ、残りを1つずつ自分達の前に置く。
「さすがお母様!」
無邪気に喜ぶクナウティアがはしゃいだ声をあげる。リクニスの使者や聖女といった輪に自分も数えられていることに、バーベナは少しだけ微笑んだ。悪くない人間もいるのね。
女性達のお茶会は、複数の種族が住まう世界の平和を小さいながらも実現していた。
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