98.思惑は一致したみたい

 ひとまず今夜は休むことになり、クナウティアの部屋に母が一緒に眠る。荷馬車を横付けした部屋はセントーレアの一家が使い、隣の空き部屋をリッピア家の男性3人が借りることとなった。


 城の主に居住を許されたものの、ルドベキア達は荷物を取りにリクニスへ顔を出さなければならないし、使者のリナリアも報告に戻る義務がある。魔王シオンがクナウティアの外出を許すわけがなく、彼女の首に再び首飾りがかけられた。


 クナウティアが逃げたと思われた事件で、彼女は風呂に入る前に外した首飾りをつけ忘れていた。そのため居場所を探した魔王シオンが、感知で引っ掛かった彼女の自室に飛び込んだのだ。大騒ぎする侍女により首飾りが発見され、聖女の居場所特定が困難となった。


 今度は絶対に取れないよう、複雑に魔法陣を組み合わせて仕込んである。外しても一定時間で彼女の首に戻るようにした。居場所も感知できるし、何か壊さないよう彼女の能力を弱める呪いも重ね掛けしている。


「二度と外すな」


 言い聞かせて留め金を掛けていると、リナリアは目を輝かせた。すでに2人以外は引き上げた部屋で、母は手を叩いて喜ぶ。


「やだ! もしかして見初められちゃったの? まだまだ子供だと思ってたけど、魔王陛下になら嫁にあげてもいいわ」


「いらん」


 クナウティアが何かいう前に、シオンが即答した。こんな面倒で手のかかる女は不要だ。今までだって、別に妻がいなくて不自由したことはない。言い切ったシオンは首飾りを確認すると、さっさと部屋をでた。


 入り口で控える宰相ネリネは、ちらりとリナリアの様子を確認して笑顔で頷く。その微笑みは確かに2人で通じ合っていた。


 魔王シオンの嫁に聖女が来れば、魔族は安泰と考えたネリネ。城の主人と結婚すれば、娘の未来は薔薇色! しかも禁断の恋って萌えるじゃない! と浮かれるリナリア。多少のズレはあっても、彼と彼女の利害は一致した。


「ネリネ、いくぞ」


「はい。ただいま参ります」


 呼ばれて会釈したネリネが扉を閉める。広いベッドの上に腰掛け、リナリアはブーツの紐を解いた。


「ああ、疲れたぁ。意外と近くてよかったわ」


 近くはないが、遠距離を歩かなかったのも事実だ。腰のベルトを緩め、リナリアはごろんと後ろに寝転んだ。隣に飛び乗った娘が、浮かれた声で話しかける。


「私、このお城でお友達が出来たの! バーベナって猫耳の子で、すごく可愛くて耳も尻尾も柔らかくて大好き。美味しいお菓子も用意してくれるわ」


「ずっとこの城に住みたい?」


 クナウティアはご機嫌だった。すべてが思うまま、家族もこの城に住めることになり、親友も来てくれた。何も不自由はないし、戦う必要なんてないんじゃないかしら。


 だから母の誘導尋問に、あっさり頷いた。


「ずっと住みたいわ」


「そう……後で相談しましょうね。あの人は泣くでしょうね」


「そうね」


 相槌を打った娘は、父が泣く理由を感涙の類と考える。しかし妻は夫の「まだ嫁にはやらん」とゴネる姿を想像していた。


「遅いし、寝ましょうか」


 クナウティアはクローゼットから取り出した夜衣に着替え、母は下着姿でベッドに潜り込む。久しぶりに並んで手を繋いで目を閉じた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る