67.魔王城で婚約しました

 鱗を月光に煌めかせながら、部屋の中を監視する。得体の知れない人間が、城内の魔族に危害を加える可能性が危惧された。そのため、命じられたわけじゃないが竜人である魔族が、自主的に部屋の前に立つ。


 物置ではないが、ずっと使用されてこなかった空室は元々客間として作られた。中にトイレや風呂も完備しているため、人間達を外に出さず朝まで閉じ込めることが可能だ。


「陛下はお優しい」


「それゆえに傷つけられたのだ」


「わかっている」


 自分達がきっちりお守りせねば、優しい主君はいつも傷だらけだ。蘇るたびに人間に攻撃され、迎え撃っただけで殺された。封印され、回復すると目覚める。また人間は襲ってくるだろう。


 魔族を最優先に考えてくれる魔王を傷つけるなら、この場で人間を殺してしまおう。刺客の可能性を考え、竜人達は槍や剣を手に部屋の外に控えた。廊下側も窓側も同じだ。


 室内で窓の外を見ていたセントーレアが、きゃっと興奮した声を上げて手を振る。竜人達は顔を見合わせ、恐る恐る振り返した。くるくる回り喜ぶセントーレアに、どうやら手を振られたのが自分達で間違いないと護衛は首をかしげた。


「どうしたの?」


「見て! 警護してくれてるわ」


 言われて窓の外に立つ竜人を見つけ、ニームは目を瞬いた。彼らはしっかりとこちらを見張っている。外から来る者への警戒なら背が見えるのに、しっかり目が合ってしまった。


 嬉しそうに「警護がつくなんてお姫様みたい」と喜ぶセントーレアに、ニームはにっこり笑って頷いた。


「そうだね、セレアは僕のお姫様だけど」


「……そろそろ言ってくれてもいいと思うの」


 ぼそっと呟かれ、わざと聞こえるように言ったのだと気づく。しかし照れ臭さと恥ずかしさにニームは俯いた。女性から告白させるわけにいかない。彼女は適齢期で、僕の決断を待ってくれている。幸いにして父母も一緒だった。


 もう柵を気にせず、告白しても……いいよな? うちの両親も納得してて、互いに気持ちは知ってるんだから。


 ごくりと唾を飲み、セントーレアの手を引いてソファ代わりに簡易ベッドへ座らせた。足元に膝をついて、彼女の手を握った。期待を込めたセントーレアの瞳を覗きながら、にっこり笑う。


「美しく優しいセントーレア、絶対に幸せにするから……僕のお嫁さんになってください」


「は……」


「「やったわ(ぞ)」」


 真っ赤な顔で娘が頷く前に、後ろで息を飲んで見守る父母が興奮して叫んだ。おかげで一世一代の告白が台無しである。慌ててセントーレアは最後まで言い切った。


「はい、喜んでニームのお嫁さんになります」


「ありがとう」


 幸せそうに手を握って微笑み合う2人と、小躍りして喜ぶ両親――外から見る竜人達は顔を見合わせた。


「なんだ、あれ」


「寝る前に踊る習慣でもあるんじゃないか?」


「人間は変わった種族だな」


 様々な種族が集まった魔族を知る彼らも、こんな習性は初めてだ。驚く魔族と、喜ぶ人間……相互理解は程遠かった。

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