bullet of love

ストレイドッグス

ずっと私のモノだと思ってたのに.......!!


「この前、やっと七海に勧められたジブリを見たんだよ。」


「…」


「おい、七海?聞いてる?」


「…ぁ、わたし?私に言ってる?」


「お前以外に誰がいる?」


「ごめんごめん」



 夕陽が教室を照らす頃

スマホ片手に外を見ながら黄昏ているこいつと高校まで同じになるなんて思いもしなかった。



「七海さ、ジブリ好きじゃんか?」


「うん、好きだよ?」


「だろ?んでやっとジブリをいくつか見たんだよ」


「ふーん、何見たの?」


「えーとね、千と千尋の神隠しかな?」


「あーあれいいよね。ネコバスの座席絶対モフモフしてるよ。」


「…トトロじゃん。」



 やっぱ人の話聞いてなかった。



「ちゃんと話聞けよ?」


「聞いてるよ。かまちょかよ。」


「は?じゃあ今なんて言ってたか答えてみろよ?」


「あんなに私が勧めても見なかった翼が、となりのトトロと千と千尋の神隠し見たんでしょ。」



 合ってるけどそこまでは言ってない。



「いや、トトロ見たとは言ってないじゃん」


「けど見たんでしょ?」


「…見たよ」


「じゃあ同じじゃん。翼のことぐらい分かるよ」


「うざっ」


「そんな細かいこと気にしてたら彼女出来ないよ。」


「やかましいわ」


「私が貰ってあげてもいいけどね」


「はいはい、大きなお世話です。」


「…」



 いつものようにあしらう翼と、何か心につっかえたものがある七海。











「お待たせしました!!」



 肩で息をしているあたり、委員会が終わって急いで来てくれたのだろう。



「久保生徒会おつかれ」


「久保ちゃん帰ろー」



 生徒会長でもある久保と共に教室を後にした。



「もう暗くなってきたな…」



 廊下からガラス越しに外を見ると先程までの斜陽はそこにはなく、既に暗くなっていた。



「うん、、私御手洗行きたいから久保ちゃん達下で待っててー」


「はーい」


「んじゃあ、先行ってるか」


「はい!」



 2人で先に昇降口まで向かっている際、



「私待ってる間、何話してたんですか?」



 楽しそうに聴いてくる久保は、七海とは真逆で僕の心を癒してくれる。



「ああ、俺がジブリ見たから話したの。なのに、あいつ話聞いてねーんだもん。」


「まぁまぁ、それが七海さんの良さだったりしますから」


「良さねぇ…」


「でも、羨ましいです。」


「なにが?」


「与田さんと七海さんって幼馴染で今でもずっと一緒じゃないですか?」


「うん、そうだね」


「私そういう人いないですし、あまり人と仲良くなるの得意じゃないんですよ。それに私なんかと絡みたい人なんていないですし」


「ほんとネガティブだな。」


「事実ですから」



 それが君の性格。



「でもあんま気にしなくていいんじゃね?」


「…えっ?」


「人それぞれあるじゃん。別に無理して友達の輪を広げることも無いし。1人1人密に関わって仲良くしていけば、それでいいんじゃね?」


「はい…」


「それに俺や七海だっているんだし。」


「…ありがとうございます」


「なんもないよ。役に立てることあったらどんどん言って。」


「はい……じゃあ、、与田さん」


「ん?」











「次の土曜日、遊びに行きませんか…?」







「遊び?俺と?」


「…ダメですか?」


「全然。俺予定無かったしいいよ。どーせなら七海誘う?」



「あっ、ダメです!2人きりがいいです!」



「うん、分かった。2人ね、楽しみにしてるね」


「はい!」



 これからの運命はこの時既に決まっていたのかもしれない。











 "へぇ、翼と久保ちゃん、明後日デートするんだー。"











 翌日



「今日が終われば休みだ!!」


「うるせーよ、七海」


「別にあんたに言ったんじゃないもん」


「はいはい、そーですか」


「もうこんなやつほっといてガールズトークしよ、久保ちゃん」


「わかりました」



 教室を出ていく時に彼女がウインクしてたのは気のせいかな…。



「でも七海さんと与田さんって、ホント仲良いですよね」


「そー?腐れ縁だからじゃない?」


「でも、私そういう人いないので羨ましいです。」


「…でもあんま他人と比べなくていいんじゃない?自分は自分じゃん?」


「凄いですね…」


「え?」


「与田さんにも同じようなこと言われました。」


「ずっと一緒にいたら考え似るのかもね」



 だって、翼が言ってたのをそのままパクって言っただけだし。



「私、感情とか出すの得意じゃないので…」


「私もそーだよ?」


「え、そーなんですか?」


「うん。人見知りってのはあるけど、仲良くなっても冷たく接したりしちゃうし…」


「そーなんですね…」



 意外だった。だけどこれは私にとって好都合。これには目に光るものがある。











 その晩



 "

 明日、楽しみだな。どんな服着ていこう?


 翼さん、褒めてくれるかな…。


 …えへへへへ。

 "







 ♪〜

 show me 貫通した銃創

 穴が空くほど


 棘だからけのグリップ

 握りしめて


 幼い未だ

 つぼみのような弾丸で


 Let me , shot through

 the soul バラ色に染まれ




 俺の弾丸な想いを伝えたら、久保は喜んでくれるのか?それとも迷惑なのか?


 そして、その後は?


 時間は浅いが頑張って育てたつぼみは花を咲かすことなく散るのか。それだけは嫌。



 夜遅くに、音楽を垂れ流しながらその歌詞に影響され、思いふけていた。ちなみにその曲はファンの中で


薔薇尻弾


と呼ばれている。




 そして迎えた当日。







「お待たせしました!」


「うんん、全然待ってないからいいよ。」


「ありがとうございます。翼…さん。」


「全然、ゆっくりでいいよ」



 一昨日話した以降、もっと仲良くなるために取り組んでいる事、それは呼び捨て。



「どこ行きますか?」


「ショッピングモール行こうかな?」


「いいですね!行きましょう!」


「翼さん」


「ん?」


「あの、、」


「どうしたの?」











「手繋ぎませんか?」







 "

 やば、寝坊した。


 けど、どーせあそこ行くんでしょ。


 ...やっぱそーだ。。


 スマホを見ながらニヤニヤが止まらなかった。

 "






 近くのショッピングモールまでやってきたけど案外人が多い。



「どこ行きますか?」


「んー特に決めてなくてブラブラしようかなと思ってたんだよね」


「…じゃあ、行きたい所行っていいですか?」


「いいよ。」



 行きたい所に突っ走っていく辺り、やっぱ久保も女子。

 そしてすごく目が輝いている。



「これもいい…」


「…綺麗」




 ほら、ね?






 翼と久保ちゃん、楽しそうじゃん。



 スマホでGPSを開きながらイヤホンから流れてくる翼と久保の声に、ただ嬉しがっていた。


そこには気持ちの余裕があったから。



ただその余裕が時に自分を窮地に立たせることをこの時はまだ知らない。






「このお店入ってもいいですか?」


「うん、ここ…」


「…?どうかしたんですか?」


「いや、なんでもないよ、行こ」



 洋服を一つ一つ輝いた目で見る久保を横目に、俺は懐かしんでいた。






「あっ、ここ…」


 前に翼に買ってもらったお店。


「懐かしいな、見ていきたいな…」



 でも今はそれが出来ない事実。

どうにかしてバレない距離に離れて時間を潰した。











「今日はとても楽しかったです!」



 外のベンチに腰をかけ一休み。



「それは良かった」



 目の前の池に映る夕陽が綺麗。






「普通に楽しい買い物じゃん。」



 遠くから眺めていただけだったけど、翼と久保ちゃんが仲良くなっただけの平和な1日だった。それは私的にも嬉しかった。



「帰ろ、もう充分かな」



 もう後をつける必要がないと思い、先にショッピングモールを後にした。






「あ、雨」



 目の先の曲がり角を曲がれば家が見えるぐらいの距離



「やば!」



 走ったおかげかあまり濡れずにすんだ。



「寒っ!お風呂入ろ。」



 急いで湯船を沸かして衣類を脱いだ。




 この不器用な両片思い。けどこの雨が、友情が破壊となる予兆に過ぎなかった。











「んじゃ、そろそろ帰る?」


「ですね…」



 七海の寂しそうな顔。



「ねぇ、七海」


「はい」


 だけどなんと声をかけたらいいかわからず…。



『あ、雨…』



 手のひらに落ちた水滴。気づけば最後、土砂降り。



「傘ある?」


「ないです!」


「やべぇな」



 どうにか屋根がある所に避難は出来たが、止む気配は見えない。



「とりあえずここから近いし俺ん家行くか」


「え、びちょ濡れで上がったら、その、迷惑というか…」


「気にすんな。ここにいる方がしんどい。とりあえずこれ着とけ」


「うえぇっ!?」



 ○○さんの上着!?ああ、私なんかのために…。自分が濡れちゃうのに…。なんでこんなにも優しいの。我慢できないよ。。






 バレないように、静かに、おおきく、深呼吸をした。










「めっちゃ濡れたな」



 ただただ走った。無論雨はおさまりはしなった。



「風邪ひく前にお風呂はいってきな!服、俺のになっちゃうけどいい?」


「えええ、いやいや翼さん入ってくださいよ!私なんか後ででいいので!!」


「いいから、早くはいってきな」



 無理やり風呂場に押し込まれた。






「あっかーい」



 湯船に浸かって一段落。



「翼さんに悪いことしたな」



 ふと、悲しくなる。



「久保ー、着替えおいとくぞー」


「は、はい!ありがとうございます!」


「…翼さんも入りたいですよね!すぐ出ます!」


「待った!ちょっと待て!!」



 すざましい足音がどんどん遠くなる。



「あっ…」



 一連を理解した私は、風呂に入ったからと言い訳できないぐらいに、身体が暑かった。






「こんな私なんかのためにお風呂と着替えまで用意していただいて」


「全然大丈夫だよ、とりあえずゆっくりしていきな」


「ダメですよ、そんな」


「俺が良いって言ってんだから」


「じゃあ、せめてのお礼で…」






「うめぇ」


「うれしいです…」



 久保が作ってくれた料理が美味すぎて、箸が止まらなかった。気づけば沢山作ってくれた料理も全て平らげていた。



 その後はリビングで談笑。時間が過ぎても雨は止まない。むしろどんどん雨足は強くなる。



「止まないね…」


「ですね…」


「お母さんに連絡した?」


「はい、しました!」


「そっか」



 地面に叩きつける雨の音が家の中にさえ響き渡る。



「ねぇ、久保」


「はい?」


「この天気だしさ、もしあれだったら…」






「泊まってく?」






「えっ、あっ…」




 その時、窓から眩しい光が灯り、部屋の電気が消えた。





「キャッ!」




 そして響く声。




「落ちたな…」




「…」




「懐中電灯どこだっけな…」




 非常事態のために準備していた懐中電灯を取りに行こうと——





「待って…」




 震える声。






「ん?」




 震える手。






「今はダメ、、1人にしないで」






「でも暗いと何も見えないじゃん」






「何も見えないから、今だけ…お願い」




 君の温もり。自分の匂いなのに久保が加わるとこんなにも素敵な匂いに変わる。






「心臓の音聞こえるね」






「うるせ。聞くな。」





 無音の空間。隣の雨音さえも消え去る、鼓動の音。






「私のも確認してみる?」






「…え?」





 意志とは別に手が動く。


 あと数センチ…。






「いや、ダメだよ」






「…翼さんって、ウブだね?」






「うるせっ」






「もう寝よ?明日には停電も治ってるよ」






「そうだな」




 俺の手を引いて寝室に向かう。。







「頑張ったんだけどな…」




 ベッドに入り込んでも、暖かいのは掛け布団だけではないから。今夜は眠れそうにない。



「なぁ、久保」





「怜奈」




「え?」





「今だけでいいから」





「…うん、わかった。。怜奈、明日もこの天気だったら何する?」




「んー…私の好みなんかでいいの?」





「うん、いいよ」





「じゃあ、ゆっくりしながら何か観よ?」





「いいね、何観たい?」








「ジブリ作品…かな?」







「いいね、ほかのも見よっか。」





 話は尽きた。だけど寝れるわけでもなく。ただただ雨の音が部屋中に響き渡っていた。











翌日


 昨晩とは打って変わった天気。伸びをするのが気持ち良い。



「あ、そーだ。昨日の感想聞いてこよ」



 昨日の雨で壊れたしついでにと思い、私はおばさんから貰った鍵を手に取った。






「喉乾いた」



 翼の家に上がり、1回キッチンを経由しながらガラスコップに水を注ぐ。



「美味しっ」



 両手でちょびちょび飲みながら目的地に向かう。扉に手をかけ勢いよくあける。うん、いつも通り。




「翼!起きろ!!昨日k…」






 何かが割れる音がした。








「…んん、案外寝れたな」




 横を向くと天使の寝顔。手を伸ばしたら触れる距離。だけど俺は…



「弱いな…」




 俺はまたチキって彼女に触れるのを避けた。




「はぁ」




 便器に座りながら溜息。既成事実は何も作っていない。だけど泊めたことは既成事実。そして何より1番の怖いことは《ルビを入力…》…。




「ん?」






 なにか恐怖の音が遠くから聞こえた。









「んん…七海さん、おはようござ…大丈夫ですか!?」



 飛び降りようとしたけど



「あんたは来ないで」


「え?」



 なにか違和感。



「よくも私のモノを」



 そう吐きながら割れたコップの破片を拾う。




「七海!破片拾うな、危ねーよ。」



「翼。これ、どういうこと?」



「…え?」




 一瞬にして暑くもないのに汗をかいた。




「絶対許さない…」




「〇〇、なんで私じゃなくて久保ちゃんなの?」




「…」




「翼、答えてよ?」





「ネェ?」















「ネェ?ネェ?ネェ?ネェ?ネェ?ネェ?ネェ?ネェ?ネェ?ネェ?ネェ?ネェ?ネェ?ネェ?ネェ?ネェ?ネェ?ネェ?ネェ?ネェ?ネェ?ネェ?ネェ?ネェ?ネェ?ネェ?ネェ?ネェ?ネェ?ネェ?ネェ?ネェ?ネェ?ネェ?ネェ?ネェ?ネェ?ネェ?ネェ?ネェ?ネェ?ネェ?ネェ?ネェ?ネェ?ネェ?ネェ?ネェ?ネェ?ネェ?ネェ?ネェ?ネェ?ネェ?ネェ?ネェ?ネェ?ネェ?ネェ?ネェ?ネェ?ネェ?ネェ?ネェ?ネェ?ネェ?ネェ?ネェ?ネェ?ネェ?ネェ?ネェ?ネェ?ネェ?ネェ?ネェ?ネェ?ネェ?ネェ?ネェ?ネェ?ネェ?ネェ?ネェ?ネェ?ネェ?ネェ?ネェ?ネェ?ネェ?ネェ?ネェ?ネェ?ネェ?ネェ?ネェ?ネェ?ネェ?ネェ?」













 彼女の手からは赤い液体がぽたぽたと垂れていた。




「七海?」



「七海さん、気を確かにしてください!」



「私?私は普通だよ。いつも通り。」


「私はずっと翼と…」


 ただただ大好きだった。


「なのにお前はァ!!!」



「怜奈!!」




 怜奈にガラスの破片の刃が向き叫んだが、ベッドのシーツが赤く染っているのを見た俺はただただ混乱していた。






「怜奈大丈夫か?」



 腹部がもう既に赤く染まっていた。



「多分…」



「おい!七海!おま…」



 刺した後すぐその場に崩れ落ちてたけど…え?











 なんでそんな苦しんでんの??











 刺したのは自分なのに心は刺された気分。


 身体が言うことが聞かない。腰は抜けて立ち上がれず、寒気や震えは止まらない。



 交錯中に耳元で囁かれた一言が永遠に頭から離れない。

















「私と同類だね」




 fin



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