鍵束

カント

本編

 木製の鍵で開いた先は、一面の砂漠だった。


 有り得ない。


 扉を閉め、鍵を引き抜く。


 鍵は一瞬で朽ちた。


 一つの鍵の使用は一度きり。だが、厳選せねば。


 鍵束から無作為に次を選ぶ。開いた扉の先は――崩壊したビル群と灰色の空。


 論外だ。


 私は舌打ちした。


「まだです?」


 鍵束を渡してきた後方の男が欠伸をした。奴は言った。私は死んだ。故に、鍵で行先の変わる扉で、次の人生を選べ、と。


 だが、これで何個目だ?


 私は扉を閉め――。


「あ、その鍵束、次に持ち越しなので、ご注意を」


 ――手を止めた。


「どういう意味だ」


 男が声無く笑う。答える気は無いらしい。





 鍵が減るとどうなる?


 開けられる扉が減る?


 ……扉?




 考える私の後方で、男は只、笑っていた。

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鍵束 カント @drawingwriting

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