ミニマリズムを思わせる筆致で、淡々とえがかれる短い出来事。でもその背景は、けしてシンプルなものではありません、我々の現実の世界のように。
作品にはいくつもの「消えていくもの」がえがかれています。フェノミナと呼ばれる不可思議な現象、いちど主人公たちのもとを去った友人、恋愛関係、手元から滑り落ちてしまった硬球。喪失してしまったことの痛みは大げさに語られることはありませんが、その痛みを、確かな文章が十分に想像させて主張します。そのタッチ感が絶妙で、リアリティを持ち、物語の質の高さを感じさせてくれます。
登場人物たちがほんとうに生きていて、苦しんだり悩んだりしながらも、懸命に生きていることを信じさせてくれる、素敵な作品です。