第6話④ 誤解から恋は始まり…愛は誤解で終わる?

 恭平、ミラーボールを消すと、天井にセットしてあった照明器具のスイッチを入れた。そして結婚行進曲の音楽を流した。音楽に合わせて、荘厳な光のスジが宏美の周りに現れた。すべて、この日のために、イベント会社から借りてきた舞台照明である。そして、マントと衣装を脱いだ恭平はタキシードに着替えた。

 恭平は宏美の少し離れて立つと、まるで結婚式の列席者がいるように話し始めた。

「本日は、山田恭平、中谷宏美両人の結婚式にご出席いただきまして、ありがとうございます。わたくし、本日の司会を務めさせていただきます、山田恭平でございます。新郎とは『同一人物』ということで、この大役を仰せつかりました。では、さっそく、結婚式を始めさせていただきます。新郎新婦入場!

 恭平、音楽のボリュームを上げ、最高潮を演出する。そして宏美に近づくと、用意していたウエディングベールをとりだし、宏美の頭にかぶせた。

「今まで自信がなくてなかなか、はっきりと言えなかったけど。宏美、君が好きだ。僕と結婚してくれ」

「恭平…」

「いいだろう」

「…」

 宏美の目から涙が溢れてポロポロ落ちた。

「どうしたの…泣いているの。それは、だめというこ とかい」

「ううん。うれしいの。うれしくて泣いてるの」

「それじゃ…」

「うん。幸せにしてね」

「やった! 宏美」

「恭平! 」。

 恭平と宏美が抱き合った。そして、キスをしようとしたとき、

「ちょっと待って、涙で貴方が見えないの。今日はね、貴方の顔をしっかりと見ようと思っていたの…ちょっと、ごめんなさい」

 宏美は恭平から離れるとハンドバックを開けて、ハンカチを探った。その間に恭平はポケットから綺麗に折られた一枚の紙をゆっくり取り出した。

『僕の真剣な気持ちを示そうと思って…婚姻届、いつもポケットに入れていてよかった』

 恭平は婚姻届を持つ指先に少し力が入るのを感じながら、宏美に近づいた。

「僕の気持ちだよ。宏美、さあ、受け取って」

「え、ありがとう」

婚姻届を受け取った宏美は泣きすぎて鼻水もけっこう出ていた。

「僕の判は、もう押してあるんだ。後は宏美がサインして、はんこを押してくれれば、もう僕たちは夫婦に…」

 宏美は恭平に背を向けると、折られたままの婚姻届をティッシュと勘違いして、思いっきり鼻をかんだ。

『チーン! グシュグシュグシュー…』

「え!!」

 そして、婚姻届を宏美がごみ箱に捨てた時、

「あー あーああああ!!! 」

 恭平の叫び声が聞こえた。

「どうしたの恭平! 」

 振り返ると、恭平は力一杯、両手を伸ばしている。

「えっ、なに、ウッ…」

 宏美は急に首が苦しくなった…

 恭平は、盛り上がった筋肉に力を入れ、伸ばした手を上に上げた。

 宏美は足をバタバタさせた。身体が浮いていくのを感じながら…

                                  終

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ここだけの昭和世間話『恋とハナと超能力』 御堂智貴 @tomosan14

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