第9話 〜毛細管現象〜


 再度、お箸を味噌汁の中に、そっと差し入れてみましょう。今度は、お箸をきちんと揃えてです。そして、ゆっくり箸を味噌汁の水面から持ち上げてみてください。


 2本の箸の間を味噌汁が上ってきていませんか。

 そして、2本の箸の間隔を狭くするほど、味噌汁は高く上ってきます。これを「毛細管現象」と言います。


 それでは、なぜ重力に逆らって、味噌汁は箸の間の狭い空間を上ってこられるのでしょうか。

 これには、前回の「濡れ」に加えて「表面張力」という現象を理解しなくてはなりません。

 液体の表面は、常に最小の面積に縮まろうとしている力がかかっています。この力が表面張力です。

 例えば、雨の粒を涙滴型(ティアドロップ型)と思っている人も多いかと思いますが、実際には落下時の大気との摩擦で歪んでいるもののほぼ真球です。それは、雨の粒の表面張力により、体積に対して表面積が最も小さい形、すなわち真球になるからです。


 それでは毛細管現象の説明に戻りましょう。この仕組みとしてはまず、箸の濡れによって水面が持ち上がることから始まります。この時、2本の箸の間の水面は平らではありません。基本的には、味噌汁の水面から箸に沿って水が持ち上がり、2本の箸の真ん中は弧を描いて水面が下がっている形です。


 中学の一年生の理科の教科書には、メスシリンダーの使い方が教科書に載っているでしょう。ガラスに接して液体が盛り上がった場所ではなく、真ん中の一番低い位置で目盛りを読むと教わったはずです。液面は平らではないのです。容器のふちでは盛り上がり、真ん中では下がっています。これは、2本の箸の間でも、味噌汁とお椀でも観察されることです。


 もしも、そのようになっていないとしたら、それは水を弾く濡れない材質でできていて、最初の「濡れ」という現象が起きていない場合です。

 そのような材質の箸を使用した場合、箸の周囲の水面は下がることも有りうるのです。

 また、メスシリンダーのような実験器具であれば、洗浄が不十分で脱脂ができておらず、その実験が求める精度を満たしていない可能性があります。


 話を戻しましょう。

 2本の箸の間の液面は弧を描いた形になっていますが、表面張力により面積を減らすために弧から直線になろうとして水を持ち上げます。液面が持ち上がると、箸の濡れやすさによってはさらに箸の濡れが進みます。

 さらに濡れた箸は、より高い位置で弧を描いた液面を持ちます。その弧は再び表面張力によりと、この二つの作用が同時に働いて箸の間を味噌汁が上っていきます。

 この現象は、持ち上がった水の重さと表面張力とのバランスが取れたところで止まり、それ以上は上らなくなります。

 

 最後にですが、毛細管現象について最初に記録を残したのは、レオナルド・ダ・ヴィンチです。そして、「特殊相対性理論」および「一般相対性理論」で有名な、アインシュタインが最初に発表した論文も毛細管現象に関するものでした。

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