動き出す歯車(3)
雪はありすと別れたあと校舎前に立ち、学園生に挨拶をしていた。学園生たちは「おはようございます」と返して建物の中に入っていく。その中で彼女は先程のありすに渡した紙の内容を思い出していた。
(星空自由…。高校から入学ということは結構な実力者のはず…恐らくあの人の身内でしょう。三年前の英雄さん…)
*
私、姫宮雪はいつも「姫宮さんだし大丈夫」って言われてきた。本当は全く大丈夫じゃないのに。
「雪ならこのくらい余裕でできるよね」と物事を任される。本当は全く余裕じゃない。私は天才じゃない。努力しないと何も出来ない。それなのに「大丈夫」「余裕でできる」なんて決めつけないで欲しい。
ある日、そんなことばかり言われて続けていた私に「大丈夫?手伝おうか?」と声をかけてくれた人がいた。それがその英雄さんだ。その大丈夫には普段言われてきた安心の意味ではなく、心配の意味が込められていた。私の心を軽くなる魔法がかかっているみたいだった。
私もこの学園で生徒を支えたい。そう思えるようになった。
それから数日後、生徒会室の扉を叩いた。目的は一つ。生徒会役員になるために。
*
大切な思い出がよみがえってくる。ふと彼女が前を向くとこちらに向かって歩いてくる人影が見えた。
「ゆき、おはよ…」
「凪砂さん!おはようございます。遅かったですね、何かあったんですか?」
凪砂と呼ばれた少女は気だるげにしているが、雪の隣に立ち挨拶当番の役目をし始めた。
「しゅなとすこし話をしてた」
「朱奈とですか」
「うん。この前の資料に書いてあったほしぞらさん…?その子しゅなと同じクラスで後で職員室に迎えに行くと言ってた」
「同じクラスって…一クラスしかないじゃないですか、この学園…」
この学園には、一学年一クラスしかない。そもそも童話少女に覚醒する者は少ない。そして、覚醒しても学園にくるとは限らない。そのような理由で一学年一クラスしかない。
二人が会話をしてる間にも生徒が挨拶をして校舎に入っていく。挨拶を返しつつも話を続けていた。
「ほしぞらさんってあの人の血縁者なのかな…」
「おそらくそうでしょうね。そう多い名字ではないですし」
「そっか~」
「そういえば、凪砂さんもあの人に生徒会誘われたんですよね?」
「そう。…もしかして気になる?」
「ええ、まあ…」
「そっか。でも、内緒。あまり話したくない出来事含まれてるから」
「いえ、いいんです。誰にでもそういうことありますから」
二人の間に少しだけ気まずい雰囲気がながれている。すると、「キーンコーンカーンコーン」と朝のチャイムがなった。教師が教室に来る15分前の合図だ。
「…チャイムなりましたしそろそろ教室行きましょうか」
「そうだね」
すると雪は何かを思い出したのか、
「あ、生徒会室に忘れ物あるの思い出しました。先に戻っていてください」
「わかった。じゃあ、また後で」
そこで二人は別れた。雪は生徒会室、凪砂は教室へと向かった。
オトギノセカイ ソラ @sora_0_0_
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