動き出す歯車(3)

雪はありすと別れたあと校舎前に立ち、学園生に挨拶をしていた。学園生たちは「おはようございます」と返して建物の中に入っていく。その中で彼女は先程のありすに渡した紙の内容を思い出していた。


(星空自由…。高校から入学ということは結構な実力者のはず…恐らくあの人の身内でしょう。三年前の英雄さん…)



私、姫宮雪はいつも「姫宮さんだし大丈夫」って言われてきた。本当は全く大丈夫じゃないのに。

「雪ならこのくらい余裕でできるよね」と物事を任される。本当は全く余裕じゃない。私は天才じゃない。努力しないと何も出来ない。それなのに「大丈夫」「余裕でできる」なんて決めつけないで欲しい。

ある日、そんなことばかり言われて続けていた私に「大丈夫?手伝おうか?」と声をかけてくれた人がいた。それがその英雄さんだ。その大丈夫には普段言われてきた安心の意味ではなく、心配の意味が込められていた。私の心を軽くなる魔法がかかっているみたいだった。

私もこの学園で生徒を支えたい。そう思えるようになった。


それから数日後、生徒会室の扉を叩いた。目的は一つ。生徒会役員になるために。



大切な思い出がよみがえってくる。ふと彼女が前を向くとこちらに向かって歩いてくる人影が見えた。


「ゆき、おはよ…」

「凪砂さん!おはようございます。遅かったですね、何かあったんですか?」


凪砂と呼ばれた少女は気だるげにしているが、雪の隣に立ち挨拶当番の役目をし始めた。


「しゅなとすこし話をしてた」

「朱奈とですか」

「うん。この前の資料に書いてあったほしぞらさん…?その子しゅなと同じクラスで後で職員室に迎えに行くと言ってた」

「同じクラスって…一クラスしかないじゃないですか、この学園…」


この学園には、一学年一クラスしかない。そもそも童話少女に覚醒する者は少ない。そして、覚醒しても学園にくるとは限らない。そのような理由で一学年一クラスしかない。

二人が会話をしてる間にも生徒が挨拶をして校舎に入っていく。挨拶を返しつつも話を続けていた。


「ほしぞらさんってあの人の血縁者なのかな…」

「おそらくそうでしょうね。そう多い名字ではないですし」

「そっか~」

「そういえば、凪砂さんもあの人に生徒会誘われたんですよね?」

「そう。…もしかして気になる?」

「ええ、まあ…」

「そっか。でも、内緒。あまり話したくない出来事含まれてるから」

「いえ、いいんです。誰にでもそういうことありますから」


二人の間に少しだけ気まずい雰囲気がながれている。すると、「キーンコーンカーンコーン」と朝のチャイムがなった。教師が教室に来る15分前の合図だ。


「…チャイムなりましたしそろそろ教室行きましょうか」

「そうだね」


すると雪は何かを思い出したのか、


「あ、生徒会室に忘れ物あるの思い出しました。先に戻っていてください」

「わかった。じゃあ、また後で」


そこで二人は別れた。雪は生徒会室、凪砂は教室へと向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

オトギノセカイ ソラ @sora_0_0_

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る